血色の珈琲屋 【フリーアートシリーズ】

　２　三木さん登場 ページ2

「今日は夕方から雨が降るでしょう。気温も下がり、肌寒くなると思われます」


　それなら、タオルを用意しなきゃ。ずぶ濡れでくるお客さんもいるかもしれない。



　
　カフェは自分の家と扉で繋がっていて、すぐに移動できた。木を編んで出来たタンスを開けると、真っ白なタオルが出て来た。それを５枚掴んで胸に抱き、すぐに店に戻った。



　こんな日もあろうかと、毎日タオルはふかふかの状態にしている。お店のドアを開けると、釣り道具と水色のクーラーボックスを持った男性がひとり来ていた。




　頭の白髪は立派に生え、肌には斑にシミがある。優しくて少し鋭い茶色の瞳に首の細長いシワを幾つも作っている。常連客の三木さんだ。
　



　私は口角を上げて、「いらっしゃいませ！」と声をかけた。よそよそしくカウンターの内側に入って行き、普段はお客様の荷物入れに使っている籠にタオルを入れた。



　下の棚には荷物入れの籠と５種類のコーヒーメーカー、大量に仕入れた珈琲豆の大きな袋が幾つか。その他にも何かあるのだけれど。



　少し高くて仕入れにくい品物は少ししかなくて、筒状のプラスチックのカンカンに入っている。カンカンは白くて赤い文字が描いてあり、アンティークを思わせる品物で後ろの棚に飾ってある。




　三木さんは真ん中の席に決めたようで、釣り道具を壁にたてかけて直ぐ横にクーラーボックスを置いた。そして背もたれのない、銀色の一本脚のチェアーに腰かけた。



　「知佳ちゃん、珈琲ひとつね」少しシワのある声だ。
　「はい。おまかせでいいですか？」
　「あー……ちょっと待って。久し振りにメニュー見ようかな。


　メキシコにコスタリカ、コロンビア……俺がいつも飲んでるやつはどれなの？」



　「三木さんがいつも飲んでいらっしゃる珈琲は、マンデリンですよ。苦味がある方が良いとおっしゃっていたので。コクがあって上品な風味があるんです」



　三木さんは、しばらくメニューを見詰めてうーんとしばらく考えていた。顎に手をあて、メニューとの睨みっこが始まった。




　私は手を台の上に置いて、三木さんのオーダーを待った。美味しいと言ってもらえた時もそうだけれど、悩んで迷っている時も嬉しい。




　三木さんに自分に合う珈琲が見つかりますように。

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