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懐かしい記憶にふわっと浮いた感情を静めて、
間違えて一昨年のファイルを手にした棚の隣の棚の前に辿り着き
「一個隣でしたね」
そこに手を伸ばしてファイルを手に取る。
取ろうとしただけで、僅かに手が届かないのは誤算だった。
ウーン、とつま先立ちになってできる限り腕を伸ばすけれど
物理的な問題のせいでやっぱり届かないのは予想の範疇。
つま先立ちをするのは限界だって思ったそのとき
「届いてねぇよ」
タバコの仄かな香りとともに、スッと私の背後から伸びた私よりも長い腕。
大きな手は、私が取ろうとして惜しくも届かなかったファイルをいとも簡単に手に取った。
「・・・あ」
必死に伸ばした腕を元に戻し、つま先立ちをやめて
すぐに後ろにくるんと振り返ってみれば
「前にもこういうことあったな」
ぽん、と頭に小さな衝撃。
面白そうにふっと鼻で笑った顔を目の前にして、色が塗り直された。
ふわっと浮いた気持ちを静めたのに、
もう一度浮き上がらせたのは櫻井先輩の策略だったかなんか分かんない。
「Aちゃんが資料室からなかなか戻ってこなくて迷子になってたの、すげぇ憶えてる(笑)」
櫻井先輩の些細な記憶はどこまで私を憶えているのだろうか。
「私も憶えてます」
「なんか忘れられねぇ想い出(笑)」
出来れば私の気持ちも見透かしてほしい。
櫻井先輩をこの記憶で染めたい。
「タバコ嫌いなのに、櫻井先輩のタバコの匂いを好きになった日でした」
なんて、わがまま。
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塗り直された波に乗ったのは私の方。
だけど、動かしたのは櫻井先輩の方。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年1月17日 18時
