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タバコを吸う人を好きになることはなかった。
身体に良いことなんか一つもない。
苦い煙を好んで吸っている人の気持ちが私にはどうしてもよく分からない。
だから、仕事の合間を縫っては喫煙所に足を運びタバコを吸う
愛煙家の櫻井先輩のことを好きになってしまったことを
なんとなく受け入れることに抵抗があった。
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「見つかりました、これですよね？」
資料室で見つけた頼まれた資料を櫻井先輩に差し出す。
すると、櫻井先輩はタバコを口に咥えたまま
そのファイルをペラペラっと捲っては、パタン、とすぐに閉じた。
「違うんだけど？」
「え？」
ん、と私が渡したファイルを返されて、「これ一昨年の、頼んだのは去年のな」と言ったあと
口に咥えていたタバコを離してサッと灰を落とす櫻井先輩。
あれ？私聞き間違えたのかなってまだ新しい記憶を手繰り寄せるけど、
違う、と言われたらミスをしてしまったのだと受け入れてしまった。
「・・・すみません」
フーと煙を吐き出す櫻井先輩に軽く頭を下げた。
やっぱりタバコの匂いは好きになれない。
鼻を擦る独特の苦さが広がる喫煙所にいるのも息苦しい。
だけど櫻井先輩のタバコの匂いは、何故か嫌いになれない。むしろ…好き。
「サボリ魔撤回してくれるんなら許すけど？」
ペコリと小さく頭を下げていたら、その隙にクシャッと髪の毛を撫でられて
びっくりしてパッと顔を上げると
「タバコ吸うまで待ってろ、俺も一緒に資料室行くから」
口角をキュッと綺麗に上げて笑った顔にドキドキと鼓動が速まった。
速まった鼓動を落ち着かせるために、櫻井先輩によって乱された髪の毛を整える。
髪の毛はすぐに直るのに、鼓動の乱れはすぐには直らなかった。
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待ってろ、と言われたからには待っていないといけないだろうと思い
櫻井先輩が煙を吐き出すのを、こっそり横から眺めて時間を過ごす。
端正な横顔、綺麗な肌
タバコを吸っているときにしか見せない眉間にシワを寄せて煙たがっている顔。
これらを全部、一気に独り占めできるのは喫煙所でしか出来ない。
喫煙所の息苦しさは、“恋煩い”のよう。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年1月17日 18時
