あたらしいうた2

瞳を閉じればそこには風が何もなかった様に通り過ぎて行くんだ ページ50

『もう。みんな買い過ぎ 笑』
「これくらいすぐ食べるよ。特にウッチー、Aの飯食いたがってたし 笑」
麻也と真司が両手いっぱいに買った食材を抱えて玄関に入る。

リビングに入ると、篤人の姿がない。

そっとゲストルームを覗くと、当たり前の様に篤人が寝ている。
一緒に部屋を覗いた麻也と目を合わせて笑った。

「ウッチーって自分の家みたいに寛ぐよね 笑」
『うん 笑』
「来週からアパートに入るんだって。日本人のお手伝いさんも決まったみたいだし」
『そうなんだ。篤人、自炊は無理だもんね』
「でも週に2回位みたい。それ以外はAの家に通うって言ってた 笑」
『迷惑 笑。私は麻也のお手伝いさんだから』
「ま、飯くらい作ってやって」
『いいけど。二人っきりはダメ』
「別に大丈夫でしょ 笑」
『…祐樹に心配かけたくないの』
「そっか。そうだよな」

麻也が笑って私の頭を撫でた。


「腹減ったー」

料理も並べ終わり、篤人以外テーブルについた。


「ウッチーまだ寝てんの？先食べようや」
『可哀想だよ 笑。篤人起こして来るね』
「頼んだ、A」


ゲストルームに行こうとして、思わず立ち止まった。


日本から戻って来たあの日の、私が差し伸べた手を握った篤人の大きな手

胸に引き寄せられて感じた篤人の速くなった心臓の鼓動と、懐かしい篤人の匂い

心臓が大きく跳ねた瞬間に脳裏をよぎった、祐樹の笑顔


苦しくなる胸に目を瞑って耐えていると、後ろから優しい手が頭を撫でた。


「A、ドレッシング出てないよ。俺がウッチー起こすから用意しておいて」
そう言って麻也がゲストルームに入って行く。


しばらく経って篤人がボサボサの寝癖で起きて来た。
いつの間にか私の家に置いてある自分の部屋着に着替えている。

「ウッチー全然起きねーの 笑」
麻也が笑いながら席に座る。

篤人が眠そうに何度も瞬きをしながら、いつもの席に座った。

ご飯を食べながら、3人はキャンプの話で盛り上がる。


「そういえば、Aにお土産あるんだった」

そう言って篤人がカバンから出したのは、見た事の無いマスコットのついたキーホルダーだった。

「なんや、それシャルケのマスコットやん。キャンプ土産やないんや」
真司が笑いながらキーホルダーを触る。

「別にいいじゃん。A、鍵貸して」


渡した家の鍵についた新しいキーホルダー。

それを眺めた篤人が得意そうに笑った。


私の手には、とっさに外した蒼い石のキーホルダーが握られていた

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