あたらしいうた2

世界の上に雲がこぼれて何もなかったように ページ31

「今日も絶対勝つから。後でね」
『うん、頑張ってね』

祐樹が私にキスを落とし、ホテルの部屋を出て行った。


用意してくれたチケットを持って、試合会場に向かう。
会場には祐樹のユニフォームをきたファンが沢山いて、なんだか嬉しかった。

グラウンドでウォーミングアップをしている祐樹と目が合うと、祐樹が嬉しそうに手を振った。

(頑張ってね)

口パクで伝えると、祐樹は笑顔で親指を立てた。

試合が始まり、祐樹から目が離せなかった。

祐樹のプレーに、会場から大きなどよめきが起こる。
次の瞬間、祐樹の放ったシュートがゴールネットを揺らした。

会場が凄い歓声に包まれ、揺れた。

チームメートから抱きつかれて祝福される祐樹。
もみくちゃにされながら、笑顔で私を指差した。

リードを守ったまま、柏は勝利した。
その日一番の歓声を受けたのは祐樹だった。


先にホテルに戻り、興奮した体を冷ます様にシャワーを浴びた。
サポーターの歓声に包まれた祐樹の事を思い出し、嬉しくなる。

髪を拭きながらバスルームを出ると、ちょうど携帯が鳴っていた。
手に取った瞬間、篤人 と表示したまま切れてしまった。

そのまま携帯を見つめていると、また携帯が鳴った。
表記されたのは 大津祐樹 の文字。

『もしもし、祐樹？』
「A、もうホテル帰っちゃった？」
『うん。ちょうどシャワーから出た所』
「チームメートがAと一緒に飯食いたいって言うんだけどいい？」
『うん、いいよ』
「じゃぁ迎えに行くから」
『わかった。用意して待ってる』
「あまりお洒落しないでね。狙われちゃうから 笑」
『あはは。急いで準備するね』

電話が切れた後、再度携帯をいじって着信履歴を見つめる。
大きく溜め息をついて、携帯を鞄にしまった。

しばらくして祐樹が迎えに来た。

「お洒落しなくていいって言ったのに」
『だって祐樹の仲間でしょ？スッピンで行く訳には行かない 笑』
「狙われたら困るから、俺の側離れない事。行こ」

私の手を取り、エレベーターに乗り込む。
ロビーを通り過ぎた時、祐樹がファン数人に囲まれて祝福を受けた。

「応援ありがとうございました」
祐樹が笑顔でファンに手を振って、私の腰を抱いて歩く。


ホテルから近い居酒屋に入ると、祐樹のチームメートがもう揃っていた。

「待ってたよ、Aちゃん！久しぶり」
『お久しぶりです 笑』
「お前ら絶対Aに手を出すなよ 笑」


祐樹が私の頭を引き寄せ、楽しそうに笑った。

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