ラブセレナーデ12

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日はすっかり沈み、車を降りた瞬間に冬の冷たさが容赦なく頬に突き刺さる。


玄関の鍵を開けるAの後ろ姿を見ながら考えるのは、ピンクと黒のフロントホックの事ばかり。






あの下着を着てって、どう言ったらスマートなんだ？


明るく言うべきか？

それとも、真剣に言うべきか？

ちょっと冗談っぽく言うべきか？

可愛らしく言うべきか？





Aの好きなオダギリジョーだったら、こういう時どうするんだ？


いや、オダギリジョーに、Aの下着姿なんで見せないけどな

オダギリジョーに、Aを絶対に会わせないけどな




そういえばこの前、晴ちゃんからオダギリジョーの映画のDVDが届いて、Aはスゲー嬉しそうだったな


「オダジョーの過激なベッドシーンもあるよ」とニヤニヤ笑う晴ちゃんに、Aは頬を染めてたな


あのDVD、もう見たのかな

オダギリジョーのベッドシーンに、Aはドキドキしたのかな



…オダギリジョーめ。くそっ






煩悩でパンパンだった俺の頭はいつの間にかオダギリジョーへの嫉妬に変わり、

Aは絶対に渡さないぞ、と会った事もないオダギリジョーに、心の中で宣戦布告をしていた。






・






夕飯を作るAを見ながら、何て言ってあの下着を着てもらおうと考え、


笑顔で夕飯を食べるAを見ながら、今日はあの下着を絶対に見たいと考え、


風呂が沸くまで、パソコンで「彼女に積極的になってもらうには」というワードを調べたりして、



でも結局、何も思いつかず。







『お風呂沸いたよ。今日の入浴剤は、草津温泉。生薬エキス配合って書いてあるから、体の芯までポカポカだね 笑』


と、何も知らずに無邪気に笑うAの手を、引き寄せた。

『どうしたの？』と驚くA。







「…一緒に、入らない？」
『入らない 笑』

風呂の誘いを断られるのは、想定内。




「なんで？」
『今日は、約束の日じゃないもん』
「どうしてもダメ？」
『どうしてもダメ 笑』
「5分だけ」
『ダメ 笑』
「じゃ、明日一緒に風呂ね」
『それも、ダメ 笑』
「ダメばっかだね」
『…だって』
「そんなに、俺の事イヤ？」
『…そうじゃなくて、』
「イヤ？」
『…違う』
「じゃぁさ。今夜、あのピンクと黒の下着着てよ」
『え？』
「これもダメ？」


Aが、俯く。


もう一押しか？





「いい？」

俺の言葉に、Aが小さく頷いた。









よし。

心理作戦、大成功。



小さく、ガッツポーズをした。

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