アップルソング2

雲が音も立てずに流れて ページ26

「ウッチー。次のチャンピオンズリーグの相手、どこやったっけ」


篤人のチャンピオンズリーグの試合の 2日前。
ソファーに寝そべる真司が、パソコンを見ている篤人に話しかける。







「どこだっけ。忘れた」
「相変わらずやな、ウッチーは」


二人の会話に「内田先輩。セルティックでしょ」と、祐樹が笑いながら会話に参加した。





「そうだった」
「アウェーですよね、確か」
「うん」
「じゃ、俺はこの家で応援しようかな」
「俺もそうするわ」
「迷惑です、真司君」
「お前の方が、迷惑やわ」
「そんな事無いでしょ」
「A。大津の事迷惑って、はっきり言った方がええで」
「A。真司君の方が迷惑だよね」
「大津。俺とAの絆の深さをなめんなよ」
「いや。真司君よりも、俺とAの絆の方が深いな。間違いない」
「Aはウッチーの次に、俺の事が好きなんやで」
「いや、俺でしょ 笑」
「俺やて」



真司と祐樹の言い合いに、麻也は笑って。
篤人は相変わらず、無視を続けていた。






「そうや。万が一、ウッチーがゴールを決めた場合。お決まりの、指輪にキスのパフォーマンスしてな」


真司の提案に、篤人がパソコンから顔を上げて。
そして「そんな事、絶対にしない」と、ハッキリと拒否をした。





「Aも、喜ぶやろ」
「絶対にしない」
「せっかく結婚したんやし。それに、ウッチーのゴールなんて稀なんやし。期待してるで、ウッチー」
「しないから」
「なー、A。Aもあの指輪パフォーマンスして欲しいよな。いつも支えてくれる奥さんへの感謝を、ピッチで表現する。これ以上嬉しい事ないやろ」
『私は恥ずかしいから、いい 笑』
「絶対に嬉しいって。頼んだで、ウッチー。一度でいいから」







数日後の、アウェイでのチャンピオンズリーグの試合。
篤人は、いつものようにスタメン。


それは、前半 30分だった。
サイドを駆け上がり、篤人が低いクロスをあげる。
プリンスが放ったゴールはキーパーがはじき、そこに詰めていた篤人が体制を崩しながらボールを押し込んだ。


大きな歓声。
仲間にもみくちゃにされる篤人。
ゴールに湧くサポーター。




カメラは、ゴールをした篤人を映し続ける。


仲間から解放された篤人が、右手で左手の薬指にそっと触れた。
たった数秒の出来事。
そんな篤人の姿に、ギュっと胸が詰まる。









「内田先輩、ちゃんとAに感謝した。超地味だけど 笑」


その篤人の姿を見た祐樹が、笑った。

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