アップルソング2

真っ赤な太陽　ー祐樹SIDE ページ15

”誰かに想われる恋も悪くないと思うよ、大津”





あの日のこの言葉が、始まりだった。

俺がドイツに移籍してすぐ、葵が何故か練習場に現れたあの日。




「大津に会いたくて、こんなに遠いドイツまで来たの」
「…」
「鈍感 笑。大津がずっと好きって事」

笑いながら、車から降りる葵。
葵の言葉を理解するのに少し時間は掛かったが、告白の仕方も葵らしくて。



「葵、また遊びに来い。次はデートプラン考えておくから」
「楽しみにしてる」







数時間後、葵からメールが届いた。

”高校一年生の時から、待つのには慣れてる。10年でも20年でも、待ってやる 笑”




俺の事を本当に知り尽くしている、葵からのメール。
俺の気持ちを、全てわかってくれているメール。





”サンキュ”
”その時が来るまで。女を磨いとく”
”俺も、男を磨いとく”
”まずは、試合に出ろ”
”うっせ 笑”

メールを送信し、俺の大切な写真が置いてある棚を見上げた。






高校のサッカー部の写真。
柏時代のチームメートとの写真。
Aの卒業式に、初めて一緒に撮った写真。

そして、Aと恋人同士だった頃に俺の携帯で一枚だけ撮った写真。









それから、葵がこっちに来る事は無かった。

でも帰国した時は、必ず会っていた。
宏樹と、3人で。




葵と二人で会わなかったのは、「大津がちゃんと真っ直ぐ前を見る日まで、二人では会わない」と言われていたから。

後ろを見ていた訳じゃない。
でも、Aの幸せを最後まで見届けたかったのも事実。

それを全てわかってる葵の言葉に、感謝した。









Aと内田先輩の左手に存在する、夫婦の証。

幸せそうな、Aの笑顔。




「A」
『なに？』
「ちゃんと、幸せ？」
『うん。幸せだよ』
「この先も、きっと幸せだよね」
『うん。そう思う』


Aの幸せな顔を見ながら思い出したのは、葵の笑顔だった。









「葵。起きてた？」
「まだ、22時だよ 笑」

スカイプの画面に映るのは、いつもの葵の笑顔。
その笑顔に、心の底から愛しさが溢れた。





「葵」
「なに？大津」
「好きだよ」

途端に、葵の瞳から涙がこぼれて。




「好きだよ、葵」
「…うん」
「待たせたな」
「…うん」

どんどん頬を伝う、葵の涙。



「あんまり泣くと、明日の朝ブスになるよ」
「うるさい、大津」
「葵、泣き過ぎ 笑」
「ねぇ、大津」
「ん？」
「大好きだよ、大津」




涙で顔がくしゃくしゃな葵が、幸せそうに笑った。

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