アップルソング

サニー ページ28

「明日の昼から夜まで、フリーになったんだけど」

篤人から電話が来たのは、ギリシャ戦が終わった日の夜中だった。





”だから、会おう”

なんて言葉は、言わなくても伝わって来る。




『うん』
「俺、ホテルの周辺しか出れないから」
『わかった。お父さんとお母さんにも伝えておくね』
「伝えなくてもいいよ、別に」
『ダメだよ 笑。篤人のいるホテルに行けばいい？』
「うん。内田の家族って言えば、入れるから」




”家族”

また嬉しい言葉。



『わかった 笑』
「じゃ、明日」
『うん』


プツっと切れた電話の画面を見ながら、明日は何を着ようかな なんて考えていた。








「内田の家族です」

その言葉を発したのは、篤人のお父さん。
ロビーに通されると、日本代表のジャージを着ている選手がたくさんいた。





「Aだ」

私に駆け寄って来ようとする祐樹の頭を、篤人が小突く。
篤人のご両親と一緒にいる事に気づき苦笑いした祐樹が、私に向かって小さく”ゴメン”と言った。





「そこ、座れば？」

篤人に促され、ロビーの4人掛けのテーブルに移動する。




「篤人。調子は良さそうだな」
「熱いから水分補給をしっかりね、篤人」
「ブラジル料理おいしくて。父さん、毎日食べ過ぎだ」
「思ったよりも、過ごしやすいわね。もっと暑いのかと思ってた」


家族の会話を側で聞いている事が、嬉しくて仕方無い。
少しだけ息子の顔に戻る篤人が新鮮で、また頬が緩む。




たまに耳に届く「あの子がウッチーの彼女か」という他の選手の声に、「うるせーから、どっか行け」と、篤人が照れたり。

数週間ぶりに目の前にいる篤人の姿が、嬉しかった。








「A、行くよ」

一時間程して、篤人が椅子から立ち上がった。




「そうだな。篤人も、奥さんと二人になりたいよな」というお父さんの言葉に、「……そういう訳じゃないけど」と、篤人の顔が赤くなる。




「そうね。久しぶりに会ったんだし。Aちゃんと二人っきりにさせてあげましょう 笑」
『え？』
「Aちゃん。篤人の事、宜しくね」
『でも…』
「行くよ、A。父さん母さん、またね」
「悔いの無い様に。応援してる」
「ありがとう。じゃ」




笑顔のご両親がホテルから出て行くのを見送ると、「こっち」と篤人に腕を引っ張られ、エレベーターに前に誘導された。




「お前達、ついてくんな」と クルリと振り返った篤人の目線の先には、「バレたか 笑」と笑う、真司と祐樹の姿があった。

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