アップルソング

RED MOON ページ27

コートジボワールとの初戦が近づくにつれ、篤人からの連絡は少なくなっていた。


篤人から届いた、試合前日のメール。




”明日、会場で”









「…今まで感じて来た雰囲気と、全然違う」

スタジアムの雰囲気に圧倒された美咲が呟く。




『…うん』
「どうしよう。緊張してきた」
『私も』
「きっと、大丈夫」
『うん。信じよう』
「どうしよう、A。泣きそう」
『ねぇ、美咲』
「なに？」
『ずっと見ていようね。何があっても、目を逸らさず』
「A」
『ん？』
「勝てる、よね」
『もちろん！ゴールを守ってるのは、誰？』
「日本の守護神、永嗣君！」
『でしょ？笑』






日本の初戦の日。




明るく照らされたグラウンド。
超満員のスタジアム。
青とオレンジに染まったスタンド。



22時キックオフという事で過ごしやすい気温には下がったが、湿度が高く重い空気がまとわりつく。





たくさんの日本の国旗。
サポーターが声を揃え歌う、応援歌。
太鼓の音。




グラウンドで黙々とウォーミングアップをする、選手達。
そこに笑顔は無く、集中力を高めている事がわかる。


私は、篤人だけを見ていた。
一度もこちらを見ない篤人。
篤人は、ただ前だけを見ていた。







ワールドカップのアンセムが流れ、選手達がグラウンドに現れる。



大きく沸くスタンド。
悲鳴に似た、声援。
更に熱くなる温度。




試合開始の笛が鳴ると、スタジアムの興奮は最高潮に達した。








大きな声で選手を鼓舞する、川島さん。

体を張って相手の攻撃を阻止する、麻也。

相手のパスをカットしそのまま駆け上がる、篤人。

細かいドリブルで相手の選手を何度も置き去りにする、真司。

真剣な表情で試合を見つめる、祐樹。







ここが、みんながずっと目指して来た舞台。

サッカーをやっている全ての人の、憧れの舞台。




涙が溢れそうになったがそれをグッと堪え、闘っている彼らの姿だけを真っ直ぐに見つめる。







お願い。
お願い、神様。







一つ一つのプレーに沸く、サポーター。
大歓声と、大きな溜め息。




グラウンドに鳴り響いた、試合終了の笛。




拳を天に突き上げる選手。
グラウンドに横たわり、天を仰ぐ選手。




90分は、あっという間に終わってしまった。

心臓はずっと大きな鼓動を奏で、祈る様に握っていた手には汗が滲んでいる。







歓喜と落胆。
鳴り止まない両国の応援歌。
笑顔と、涙。







ワールドカップの初戦が、終わった。

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