アップルソング

それはちょっと優しい時の兆し ページ24

”ブラジル着いた”



篤人からメールが届いたのは、日本代表が日本を出発してから28時間程経った時。
その頃私は、篤人の実家に来ていた。





『篤人さん、ブラジルに着いたみたいです』
「ひとまず、安心ね」
『はい 笑』
「やっぱり、お嫁さんにはちゃんと連絡するのね。私達にはさっぱりなのに 笑」





”お嫁さん”



まだ馴れないけど、嬉しい言葉。





「篤人に言ったの。ワールドカップ後なんて言わないで、さっさと籍を入れなさい。こんないいお嫁さん、すぐに取られちゃうわよって」
『あはは』
「Aちゃんがいるから、篤人がサッカーに集中出来ている」
『そんな…』
「そして、篤人のお嫁さんになってくれる。私達が一番望んでいた事」
『…』
「篤人の相手は大変よね。Aちゃん以外、きっと無理だわ 笑」
『私もそう思います 笑』




何度もお邪魔した事のある篤人の実家。
これからは、私の帰る場所にもなる。
篤人の、奥さんとして。



篤人の家族の一員になれる事に、また嬉しさで胸がいっぱいになった。




その後もお母さんと色々な話をし、気がつけば随分時間が経っていて。
篤人から預かっていたユニフォームを渡し、篤人の実家を後にした。








「見て。日本代表のニュースだ」


たまたま仕事が早く終わったという明日香と待ち合わせたのは、仕事帰りのサラリーマンで賑わう都内の小さな居酒屋。
お店の小さなテレビに映っているのは、ブラジルで合宿をしている日本代表のニュース。

そのニュースを見ながら、グビっと明日香がビールを煽る。




「あ、真司だ。真司って、サッカーやってる時はカッコいいよね」
『うん 笑』
「大津君だ。ウッチーの次に人気って聞いた。この前一緒に仕事したモデルに私の後輩なんだよって言ったら、紹介してってうるさかった」
『祐樹はカッコいいし、優しいし』
「大津君って、本当にいい男。幸せ絶頂だったのに自分から身を引いて、Aをウッチーに託して。Aの幸せを、いつも一番に願ってる」
『…うん』
「随分前に一緒に仕事した時、大津君が言ってたんだよね」
『何を？』
「もしこの先Aが内田先輩と別れる事があったら、俺が必ず取り戻す。その時は、もう二度と譲らない。俺をもう一度好きになってもらう自信もありますって」
『…』
「ウッチーとAの結婚を一番望んでたのは、大津君かもね」




悪戯っぽくわらった明日香が「だから、ちゃんとエステに行きなさいよ」と、またビールを飲んだ。

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