アップルソング

真っ赤な太陽がちょっと笑った ページ17

フゥ と小さな溜め息をついた篤人が、ソファーに横たわる私に寄り添う様に横になる。



ソファーの下に散乱している、二人分の服

無造作に破られた小さなプラスチックのパッケージ

くしゃくしゃに丸められた、ティッシュの塊




「狭い」

そう言って私を抱き寄せる篤人の肌は、まだ汗ばんでいて。






「いつもと、匂いが違った」
『エステでパックしたり、オイル塗ったり、色々してもらったから…』
「楽しかった？」
『気持ちよくて、寝ちゃった 笑。明日香に感謝しないとね』



私の頬を撫でる篤人の顔は、とても優しくて。
篤人の手に手を重ねると、ギュッと抱きしめられた。





「エステの効果がよく分かんなかったから、後でもう一回ね」

篤人がニヤリと笑った。









『行ってらっしゃい、篤人』
「じゃ、5日後」
『うん』


合宿初日の朝は、快晴だった。
今日から、ワールドカップ最後の国内合宿が始まる。
それが終わると一晩だけ自由行動になり、ブラジルで直前合宿をするため翌日に日本を発つ。




日本代表のスーツに身を包んだ篤人が、ホテルの部屋のドアの前で振り返った。


ゆっくりと篤人の顔が近づけば、自然と瞼が閉じて。
優しく温かいキスを私に送った篤人が、部屋を出て行った。



篤人の背中を見ながらいつも祈る事。


”ケガをしませんように”









「A、今どこ？」

祐樹から電話が来たのは、篤人を見送った1時間後。




『新宿のホテル。もうチェクアウトする所だけど』
「良かった、近くだ」
『合宿は？』
「さっき成田に着いて、合宿所に向かってる」
『お疲れ様』
「5分だけ、俺に時間ちょうだい」
『え？』
「もう、着く」
『どこのホテルかわかるの？』
「内田先輩の事だから、絶対にいいホテルでしょ 笑。色々な安全面も考えてね」



それから5分後、祐樹はホテルのロビーに現れた。


「タクシー待たせてるから、すぐ行かなくちゃだけど」
『どうしたの？』
「これ、貰って」

祐樹が差し出したのは、フェンロのユニフォーム。




「昇格を決めた試合に着てたユニフォーム。これは、どうしてもAに渡したかった。合宿が始まったらきっと逢えないだろうし。最後のオフは、絶対に内田先輩に独占されるだろうからね」
『あはは』
「A、ハグ」
『え？』


抵抗する間もなく、ふわっと祐樹が私を抱きしめて。





「深い意味はないからね 笑。これで頑張れる。よし、行ってきます」


笑顔の祐樹が、急いでホテルを出て行った。

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