アップルソング

いつもただゆっくり流れる ページ14

「やっと来れた」


明日香がお店に到着したのは、3杯目のビールが空になる頃。
自分の仕事に自信をもっている明日香は、会う度に魅力的な女性になっている。





「やっぱ、これがAに一番似合う」

私の左手の薬指を見て、明日香が満足そうに笑った。




「A。幸せになるんだよ」
『ありがとう、明日香』
「ウッチーが私を頼ってくれて良かった。一人で選んだら、ギラギラの宝石のついたセンスのない指輪を贈ってたね。間違いない」
『私もそう思う 笑』
「あ、そうだ。エステの無料券あるから、せっかくだからA行かない？」
『エステ？』
「そう。無駄になったら勿体ないし」
『エステなんて、行った事が無い 笑』
「だったら尚更いいんじゃない？せっかく日本にいるんだし。綺麗になって、ウッチーをビックリさせちゃえば？」
『綺麗になった頃には、篤人はブラジルだよ 笑』
「いいじゃん。どうせヒマでしょ？」
『確かに 笑』
「美咲の分もあるから、二人でうんと綺麗になりなよ」
『そうだね』



久しぶりに会う親友達との話は、尽きる事が無い。



化粧品の話。
おいしいご飯屋さんの話。
明日香の仕事の愚痴。


気がつけば夜中の3時を廻っていて、さすがに解散する事にした。



すぐにまた会える。

この事実が、これ以上無い程嬉しかった。






ホテルについたのは、それから30分程してから。


大きなベッドでは、すでに篤人が寝息を立てている。
手早くシャワーを浴び篤人を起こさない様にベッドに入ると、「…酒くせぇ」と篤人の声が聞こえた。



『…ゴメン』
「…ん」


”…酒くせぇ”と言った篤人の両手が私を包み、すぐに篤人の寝息が聞こえて来た。








嬉しい報告が聞けたのは、2日後の事だった。

隣で寝ていた篤人に起こされ、時計を見ると夜中の2時。
眠そうな篤人が、通話中の私の携帯を差し出した。



寝ぼけながら『…もしもし』とその電話に出ると聞こえて来たのは、嬉しそうな声。




「A！昇格が決まった！！」

祐樹の声が、電話越しに弾んでいる。





『おめでとう、祐樹』
「全部、Aのお陰。昇格したのも、ワールドカップメンバーに選ばれたのも」
『私は、何も…』
「とにかく嬉しくて、Aの声を一番に聞きたかったのに。内田先輩の声を聞いてテンション下がったんだけど。内田先輩、マジ邪魔 笑」




漏れた祐樹の声に苦笑いした篤人が私の携帯を奪い、「大津。いい所だったんだから、邪魔すんな」と、通話を切った。

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