検索窓
今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:409,571 hit

夏の風さっと吹いて僕を連れて行くんです ページ49

「よし、帰るぞ」
『はい。ご馳走様でした』

裕平さんが支払いをする姿を、少し遠くから眺める。

「また来てね。早く裕ちゃんのお嫁さんになりなさい」
「おばちゃん、コイツもうすぐドイツ行くから」
「ドイツ?また遠いわね。仕事で行くの?」

おかみさんがビックリした様にこちらを見る。

『夢を叶えてきます 笑』
「気をつけてね。またいつでもいらっしゃい。辛かったら裕ちゃんのお嫁さんになればいいから」
「おばちゃん、しつこい」
『また来ます。おかみさんも体に気をつけて』


いつもの様に裕平さんが少し前を歩き、私の家まで送ってくれる。

「A、何か困ったらいつでも帰ってこい。いつでも働ける様にしておいてやる」

裕平さんが私の方を振り返らずに歩きながら話す。

『あはは。まだドイツに行ってもいないのに』
「人間、逃げ道ってのは絶対必要だからな。何かあったらすぐ連絡してこい」
『ありがとうございます』
「気が向いて俺がドイツ行ったら観光に付き合えよ」
『はい 笑』
「お前がうちの店で働いてくれて楽しかった」
『私も楽しかったです。わかりにくい優しさで私の事守ってくれてたし』
「わかりにくいか?」
『でも私には全部伝わってましたから。感謝してます』
「そうか。東京来たら絶対店に寄れ」
『はい 笑』

私のマンションに到着した。

「じゃぁ、体に気をつけてな」
『裕平さんも。今まで本当にありがとうございました』
「いい女になって帰ってこい」
『はい』
「そのネックレス失くすなよ」
『はい。嫌な事があったら裕平さんだと思って、思いっきり握ります 笑』
「なんだそれ 笑」

裕平さんが近づいてきて、私の頭を撫でる。

裕平さんが何かを言おうと口を開いたが、思い直した様に目を伏せ小さく溜め息をついた。

「元気でな」
『はい。裕平さんも』

裕平さんが私から離れて、いつもの様に片手を上げて歩いて行った。


ドイツの香ちゃんの家に荷物を送り、部屋に残っているのはスーツケース1個と小さなカバンひとつ。

ガランとした部屋には、篤人との思い出がたくさん残っている。


思い出すのは篤人との楽しかった日々の事。

篤人の笑顔 私を呼ぶ優しい声 私を抱き寄せる大きな手


離れてしまったあの日が、もうずっと昔の事にさえ感じていた


「Aと出会えて良かった」

あの日の篤人の言葉が私の背中を押してくれる。

篤人からもらったネックレスを握り大きく深呼吸をして、真っ直ぐ前を見て玄関を出た。

悲しみに手を振って朝日に向かって歩く→←目を瞑って遠くまで そのまま明日まで



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (369 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
220人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

momotan(プロフ) - おはようございます。最初から一気にここまで読んだのですが、二人が別れた時、苦しすぎてちょっとプチパニックになりました。落ち着かせる為にわざと我慢せず泣いて頭冷やすためにカキ氷食べました 笑 続き楽しみです 幸せならいいなあ ( ; ; ) (2014年7月21日 6時) (レス) id: 713fce9fe2 (このIDを非表示/違反報告)
香代(プロフ) - 朝から一気に読ました!そしてまた、大号泣です(TT)切ない…切な過ぎます(T_T)rockinさん最高です! (2014年6月17日 14時) (レス) id: 53631b236d (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 小説で初めて泣きました。続編はまだ読んでないですが、またくっつかないかなぁ、と熱望してしまいます。笑 (2014年5月4日 21時) (レス) id: 54946c3b64 (このIDを非表示/違反報告)
コンタック(プロフ) - 分かっていたのに大号泣…あたらしいうたに進む前に素晴らしい日々をかラブセレナーデ で精神安定を図らねばとも思いましたが、どっちも結局 涙無しで読めないですし。迷い所です(._.) (2014年4月21日 20時) (レス) id: fe922a9518 (このIDを非表示/違反報告)
ライチ(プロフ) - 切なすぎです。もう切なくて苦しくて泣いちゃいました。 (2014年2月11日 9時) (レス) id: 5e8b0ee40a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:rockin | 作成日時:2012年10月24日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。