ラブセレナーデ7

番外編8　麻也SIDE ページ49

”晴が、ちゃんぽん麺をたくさん送ってくれたの。食べに来ない？”





練習後届いていたAからのメールに、心が躍る。


”もちろん。マッハで行く”






Aのちゃんぽん、めちゃくちゃウマいんだよね。
Aのお母さんが作るちゃんぽんは、俺にとって故郷の味。
その味をしっかり受け継いだ、Aのちゃんぽん。
あー、楽しみだな。







歌を口ずさみながら着替えていると、隣で着替えていたチームメートのヨッペンに「マヤ。歌、超ヘタクソだな」と笑われ、軽く傷ついた。



「マヤ。その歌は、日本のポップソングか？」
「…」
「マヤが歌うから変なのか、もともと変な音程なのか。どっちなんだ？」
「…さぁ」
「これ聞いてみろ。この音楽、最高だと思わないか？ヒットチャートで、5週連続1位なんだぜ」
「…まぁまぁだな」
「音痴のくせに生意気だな 笑。じゃ、明日な」
「おう。お疲れ」




…俺が歌っていたの、まさにその歌だったんだけど。


バタンと閉まったドアに、俺の心の叫びは吸い込まれた。









『お疲れ様、麻也。もうすぐちゃんぽん出来上がるよ」


傷ついた心に、Aの笑顔が天使に見える。
…… その後ろには、帰れオーラを体全体から発する悪魔がいるが。






『晴がね。これ麻也に渡してって。山本美月ちゃんの写真集 笑』
「さすが晴。俺の好み、わかってるね」
『私には、コレ 笑』


笑顔で俺に差し出したのは、オダギリジョーのドラマのDVD。
ジャーン という効果音を自分で言う位、Aは嬉しそうで。


「Aの好きな、オダジョーじゃん」
『大好き 笑』
「良かったね」
『楽しみが増えた 笑』





俺は気づいているよ。
悪魔が、ガーンという見えない効果音と共に、動きがフリーズしているのを。

本当に面白いな、この男は 笑。



ちゃんぽんを食べた後この悪魔のパソコンをそっと覗くと、そこにはオダギリジョーの画像が何枚も開かれていた。









数日後。
寝癖をつけたままの寝癖男と、デュッセルドルフの美容院に行った。


いつもは「…いつもと同じで」というこの寝癖男。
その寝癖男が、コソコソと美容師さんと何かを話している。





微かに聞こえて来た美容師さんの言葉に、俺は耳を疑った。


「その髪の毛の長さでは、オダキリジョーさんのような髪型はちょっと…」






おい！
お前は何を張り合おうとしているんだ！




ガッカリと肩を落とした、オダジョー真似男。

俺はその姿に、声を殺しながら笑った。

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