ラブセレナーデ7

番外編4　麻也SIDE ページ42

もっと早く、Aの変化に俺が気づくべきだったんだ。








パソコンの画面に映る晴の表情は暗く、唇を噛み締めていて。

「私が近くにいたら、すぐに駆けつけてあげるのに。ドイツは遠いよ」


晴の真っ直ぐな瞳に、俺は何も言えなかった。









俺が駆けつけた時には、もう遅かった。




燦々と太陽が降り注ぐリビング。
微かに聞こえる、鳥の鳴き声。
たまに耳に届く、外を歩く子供達の笑い声。




ウッチーがいる。
Aがいる。



いつもの光景。


ただいつもと違うのは、二人の距離。









黒いソファーに座るウッチー。
本当はいつも、その隣にはAが笑顔で座っているのに。

今のウッチーの隣には、Aはいない。
ポカンと空いている、ウッチーの隣の空間。



その光景が、俺の胸をギュッと締め付ける。









Aはダイニングチェアに座り、ずっと俯いていて。
少し遠くから見ても、目が潤んでいる事がわかる。





ウッチーが少しでも動くと、体が強ばるA。
そんなAに気づき、ウッチーはまたそのソファーに体を沈める。






静かな空間に聞こえるのは鳥の鳴き声と、子供の笑い声。
そして、ウッチーの小さな溜め息。









「……A。本当に、行くの？」

いつもよりも、随分小さな声のウッチー。
それでもウッチーの目は、真っ直ぐにAを見ていて。



ウッチーの言葉に『…ゴメンね、篤人』と、Aが静かに答える。





また静かになる部屋。
鳥の鳴き声と、子供の笑い声。
大きくなった、ウッチーの溜め息。


ウッチーは、Aの足下に置かれた大きな鞄をじっと見つめていた。






窓の外から車の止まった音が聞こえ、Aが鞄を持ってゆっくりと立ち上がる。

『麻也。篤人の事、宜しくね』




こんな言葉、聞きたくなかった。
それでも俺は「わかった」と、笑顔で答える。



『ありがとう、麻也』
寂しそうに笑ったAが、リビングを出て行った。



パタンと閉まったドアを、ウッチーはただ静かに見続けていた。







神様は残酷だと思う。
こんなに愛し合っている二人を、何故離ればなれにするのか。

真っ白な天井を見上げ、神様にお願いした。








早くAのインフルエンザが、治ります様に








季節外れのインフルエンザにかかってしまったAは今日から数日間、絢子さんの家にお世話になる。
ただそれだけなのにあまりにも悲しそうなウッチーを見て、吉田がドラマ調にお伝えしました。

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