ラブセレナーデ7

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電話を切ると同時に、Aが大浴場から戻って来た。




『気持ち良かった 笑』

嬉しそうに笑うAを見る俺の心は、昨日までとは違う。
悲しいとか、腹立たしいとか。
そういうモヤモヤしている感情が、自分の中から少しずつ消えている。



…そのきっかけがあの真面目男のお陰とは、少し悔しいが。







運ばれて来た朝飯を、二人で向かい合って食べる。


『この胡麻豆腐、大盛り食べたい 笑』
「俺の、食う？」
『篤人も食べて』
「いいからあげる」
『ダメ。この幸せを、共有したい 笑』


楽しそうに俺を見るA。






胡麻豆腐ね。
今日の夕飯にも出してもらう様お願いするか。


また俺、必死だな。
でもいいんだ。
Aが笑顔になるんだったら、なんだってしてやるさ。



胡麻豆腐を食べた俺を見て『ね、美味しいでしょ？』と、Aが笑った。









待ち合わせ場所は、子供の頃にいつも遊んでいた公園だった。
毎日の様に、蒼と莉子と楓と遊んだ公園。
楽しい事も泣いた事も、たくさん詰まった場所。







『…楓さん』

Aの目線の先には莉子と、俯いた楓の姿があった。





「A。楓が、少し話したいって言ってるんだけど」
『…わかった』
「大丈夫？」
『もちろん。行ってきます』


笑顔を俺に向けたAは、背筋を伸ばし二人の所に歩いて行った。









…どうして、こうなるかな。


車に戻って来たAは、笑顔だった。
悲しみの消えた笑顔。俺が大好きなA。


助手席に乗るAと、後部座席に当たり前の様に乗り込む、楓と莉子。







「あの旅館、ずっと泊まってみたかったんだよね」
「滅多にこんな機会も無いしね」
『ご飯も、凄く美味しいですよ』
「あっちゃん。着替え取りに、家に寄ってもらっていい？」
「は？」
「あそこの旅館に電話したら、4人部屋が空いてるって」
「は？」
「だから、あっちゃん達の部屋を変更したから。よろしくー」




は？
まさか、楓と莉子も一緒に泊まるの？
今日、あの旅館に泊まる最後の日なんだけど。
まだAと一緒に風呂も入ってないし、…アレもしてないし。


今夜は大丈夫だって思って、スゲー楽しみにしてたんだけど。



そんな煩悩は、Aの笑顔の前に消える。







Aが楽しいなら、いいか。
今夜は我慢する。

でもA。
明日の夜は、一緒に部屋風呂に入るからね。






明日の夜も、あの旅館の部屋が空いています様に。


心から願い、車のアクセルを踏んだ。

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