ラブセレナーデ7

26 ページ26

ウトウトしては目が覚めて。
またウトウトしては、目が覚めて。



私を抱きしめてくれているのは、愛しく優しい温もり。

それに安心し、また目を閉じる。









髪の毛を優しく撫でられた感触で目が覚め、眠っていた事に気づいた。

瞼を開けると、優しく笑う篤人と目が合って。






『…おはよう、篤人』
「おはよう。眠れた？」
『うん。ぐっすり 笑』
「そ。良かった」



そのまま篤人は長い時間、私の髪の毛を撫でていた。









旅館の近くを二人で散歩して、近くのカフェに入って。
公園のベンチに並んで座って、公園で遊ぶ子供を眺めて。



ゆっくりと時間が過ぎて行く。

お互いに、あの日の事は口に出さなかった。









その日仲居さんが案内してくれた部屋は、昨日とは違う部屋だった。





「そちらの奥が部屋風呂になります。いいお湯ですので、是非お入り下さい」


静かに閉まる襖。
篤人は部屋風呂を覗く事も無く「A。大浴場行くよ」と、立ち上がった。









大きなお風呂に浸かりながら、目を閉じる。




私の知らない時に、篤人がこの旅館を予約してくれた。
どんな気持ちでこの旅行を計画したなんて考えなくても、答えは出る。



篤人は、一番に私の事を考えてくれていて。
きっと篤人は私以上に、この事態に心を痛めている。






楓さんの冷たい瞳の奥に潜んでいた、戸惑い。
篤人の苛ついた表情。





鼻の奥がツンとし、目の前が涙で霞む。







泣いちゃダメ。
せっかくの旅行なんだよ。






それでも涙はポロポロと頬を伝って。
これ以上涙が溢れない様に、上を向いた。






しばらくして、人が近づいて来た気配を感じた。
ふとみるとそこに立っていたのは、5歳くらいの可愛い女の子。





『こんにちは。お名前は？』
「ひな」
『ひなちゃん。可愛いお名前だね』
「うん。ねぇ、お姉ちゃん」
『なに？』
「泣いてるの？」
『…泣いてないよ』
「本当？」
『本当』
「もし悲しかったら、マコちゃん呼んで来ようか？」
『マコちゃん？』
「そう。ひなが泣いていたら、いつもすぐに助けてくれるの。マコちゃんの顔を見たらね、すぐに涙が止まるんだ」
『そうなんだ 笑』
「ひなね。大きくなったら、マコちゃんと結婚するの」
『素敵だね』
「ひな、マコちゃんの事が大好きなんだ」




屈託の無い、ひなちゃんの笑顔。
その可愛い笑顔につられ、自然と私も笑顔になる。






涙は止まり、ここ数日で一番自然に笑っている事に気づいた。

27→←25

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す