ラブセレナーデ7

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ほとんど眠れないまま、篤人と静岡のホテルを後にした。


これからどこに行くか、篤人は教えてくれない。
窓の外に流れるのは、冬に来た時に教えてくれた 篤人の歴史。





毎朝お母さんに送ってもらった駅。
おいしいと言っていたコロッケ屋さん。
篤人が通っていた中学校。




篤人の生まれ育った町にまた来れたのが嬉しく、胸がキュっと鳴る。
それでも心の奥には、暗い影が潜んでいた。









篤人が車を止めたのは、あの旅館。



「入ろ」

篤人の背中を見ながら、旅館の中へ足を踏み入れた。








「そちらの奥が部屋風呂になります。是非、お入り下さい」

静かに閉まる襖。
仲居さんのいなくなった二人だけの空間に、少し緊張が走る。






「ほら、行くよ」

篤人に手を引っ張られ向かった先は、部屋の奥の露天風呂。



大きな庭の真ん中に存在するお風呂。
目の前に広がる、綺麗な緑。

ドキンと胸は高鳴り、すぐにまたズキンと胸が痛くなる。






「A。大浴場行くよ。ゆっくり入っておいで」

そう言って私の頭を撫でた篤人は、寂しそうに笑った。









「A。イクラ食う？」
「俺の舞茸、あげようか」
「茶碗蒸し食いたかったら、俺のも食っていいよ」


向かい合って食べる、豪華なお料理。
私の好きな食べ物ばかりが並び、篤人がご飯を口いっぱい頬張る。




『自分の分だけで充分 笑』
「Aの好物ばっかだね」
『うん。嬉しい 笑』
「じゃ、舞茸だけあげる」
『ありがとう 笑』


目が合った篤人が「いっぱい食いな」と、優しく笑った。





篤人の携帯が、震える。
チラリと目線を携帯に送る篤人は、それを手にする事はなくて。
それが何度か続き小さく溜め息をついた篤人が、携帯の電源を切った。









「寝るよ」

電気を消した篤人が、2組敷かれた布団の一つに入る。
暗くなった部屋には月の明かりがうっすらと差し込んでいて。



「おいで」

そう言った篤人は、自分の布団をめくった。







篤人の隣に横になれば、優しく抱きしめてくれて。
ドクンドクンと、重なる鼓動。
私の髪の毛を優しく撫でる手。
大好きな人。




静かな時間。
浴衣越しに感じる、篤人の体温。
私を見る、優しい篤人の眼差し。


これから始まるであろう二人の愛しい時間に、心と体が緊張する。








ドキンドキン

高鳴る胸。




ズキンズキン

まだ痛い、胸の奥。









「A。おやすみ」

私のおでこにキスをした篤人が、ゆっくりと目を閉じた。

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