ラブセレナーデ7

6 ページ6

”長崎ついたよ”



帰国して3日。
Aからの連絡は、このメールだけ。




風呂から上がった後。
寝る前。
起きた時。
雑誌や取材の合間。



すぐに携帯をチェックするが、Aからのメールはやはり届いていない。





”何してる？”

打っては消してを繰り返すメール。



溜め息を吐きながら”長崎ついたよ” というメールを、ただ眺めていた。







「さっきはどうも、内田さん」



鹿島の先輩達に連れて行かれた居酒屋にいたのは、先程一緒に仕事をしたタレント。
名前を思い出そうとするが全く頭の中を掠りもしないという事は、最初から興味が無いという事だろう。


「…あぁ」
「一緒にお仕事出来て、楽しかったです」
「どうも」
「もう少しでお友達も来ます」
「…」



何、それ。
隣にいる先輩を見れば、そのタレントに嬉しそうにデレデレした顔をしていて。


その子が席を外した隙に「…聞いてないんですけど」と先輩に言えば、「あの子可愛いよな。最近やっと、連絡先交換したんだ」と、浮かれた答えが返って来た。




「…帰ってもいいですか？」
「今来たばっかじゃん 笑」
「こういうの、苦手なんですけど」
「彼女とうまくやってんの？」
「まぁ」
「ちょっとだけ付き合って。向こうも篤人と飯を食うの、楽しみにしてたんだから」
「…」



女の子2人と男4人での食事。
その子達は色々と話しかけて来るが、全く興味の無い俺が話すのは「さぁ」か「まぁ」だけ。





「ちょっと、トイレ」


そう言って立ち上がれば「私も」と、女の子の一人も立ち上がって。
そのわかりやすい意図に、少し苛立つ。

後ろからついてくる気配を無視し電話を掛けるのは、俺が一番聞きたい声。







「…何してる？」

結局俺が先に聞く、”何してる？”




『今ね、晴の家にいるの』

そう言うAの電話越しに聞こえるのは、男の笑い声。





誰だ？
晴ちゃんのお父さんにしては、声が若いんだけど。




「…ふーん」
『晴の弟も巻き込んで、UNOしてるんだ 笑』



なんだ。晴ちゃんの弟か。
心からほっとしている自分に、少し笑う。





「俺は、鹿島の先輩と一緒に飯食ってる。…何か女の子も2人いるけど」
『そうなんだ 笑。楽しんでね』
「もう帰るけど」
『気をつけて帰ってね』
「ん」
『あ、私の番だ。またね、篤人。絶対に負けられないの 笑』





…なに、この温度差。




少しでもヤキモチを妬いてくれる事を期待していた自分に笑い、会計を済ませ一人で店を出た。

7→←5

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す