ラブセレナーデ7

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『篤人。お風呂、いいよ』



ホテルに着いて、すぐにAが風呂の準備をしてくれた。
いつもなら半分冗談半分本気で「一緒に入る？」と言うのだろうが、Aの無理した笑顔に胸が痛んで。





「…ありがとう」
『入浴剤は、どっちがいい？』
「Aの右手に持ってる方」
『そうだと思った 笑』



少しして香ったのは、俺の好きな入浴剤の匂い。
その香りには少しだけ、Aの悲しみが混じっているような気がした。







湯船に体を沈め、目を閉じる。


楓のあの態度と、深く後悔している目。
Aの、少し赤くなった目。
しばらくAと日本で一緒に過ごせると思い完全に浮かれていた、昨日までの俺。




大きな溜め息は昇る湯気に反発する様に、再び俺の胸にズシリと響いた。








俺の後に風呂に入ったAは、ベッドルームに戻って来た時にはきっちりと髪の毛まで乾かしていて。




『飲み過ぎちゃって、もう眠たい』

そう笑い、俺の隣に寝転んだ。






腕を伸ばせば、そこに頭をちょこんと乗せて。


いつもと同じ距離。
腕に感じる、いつもと同じ愛しい重み。
いつもと同じ、隣にあるAの温もり。





煩悩なんて、一つも生まれない。
ただ、Aの悲しみが消えます様に。
Aの心の傷が、癒えます様に。



そう願い、Aをギュっと抱きしめた。









夜中にふと目が覚めた。

隣にいるAをそっと見れば、いつの間にか俺に背を向けていて。
Aの小さな背中は俺が起きた気配を感じ、一生懸命寝たふりをしていた。
胸にズシンと響く、行き場の無い感情。









寝ぼけながらいつも隣にある温もりを探しても、その温もりはもう無くて。
パッと目を開ければ、部屋には燦々と太陽が降り注いでいる。





『おはよう、篤人』

起きた俺に気づいた笑顔のAは、いつの間にかお化粧まで終わっていて。
少しだけ腫れぼったい目が、ほとんど眠れていない事を物語っていた。






「…おはよう」
『今日も、いい天気だよ』
「…そう」
『チェックアウトまで時間があるから、まだ寝ててもいいよ』
「…起きる」
『珍しい 笑。いつもは、起こしても起きないのに』
「…A」
『ん？』
「おいで」



腕を伸ばすと、嬉しそうに笑うA。
笑顔で近づいて来たAの腕を引っ張り、俺の胸に抱き寄せる。







華奢な体から感じる、Aの心の奥に存在する悲しみ。
やはり俺はどうする事も出来ず、ただAを抱きしめるしかなかった。

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