不安の種 ページ32
「A」
私の部屋の扉が叩かれる音がして、
そのあとにエイジの声が聞こえてくる。
「なに?」
私は編集をしていた手を止めて扉の方に
顔を向けて返事をする。
「ちょっと中に入ってもいい?」
いつもよりも真剣なトーンのエイジの声に
私は何かやらかしたっけ、それとも企画の話?
なんて思考を巡らせながら立ち上がって部屋の鍵を開ける。
実は私の部屋にだけは鍵がついている。
私は別に無くても良かったのだが、
一応、とメンバーが配慮をしてくれたのだ。
小さいながら部屋にはシャワー室もついていて、
今でも見るたびに私が女なばっかりに、と申し訳なく思う。
「あのさ、これ、知ってる?」
エイジがそう言って見せてきたのはスマホの液晶。
『アバンティーズの霧島はそらちぃの元カノ
アバンティーズもそらちぃ目当てではいった』
「……知らない」
私はそう言いながらスマホに目を落とす。
ありきたりな悪意をもった暴露。
ツイートに添付された高校時代の私とそらちぃの
ツーショット写真で、このツイートをした人が
私たちと同じ高校の知り合いだったことがわかる。
「もしかして燃えてんの?」
もう一度編集作業に戻りながら聞けば
エイジが「まあ…」と躊躇うように認める。
「そらちぃは?」
「まだそんなに」
「ならいいや、のちのちサブチャンで動画出そう」
私のそんな台詞に後ろでエイジが息を詰まらせた。
何か言葉を飲み込んだように。
「良いの?」
そんなどこか躊躇したようなエイジの言葉に
私はまた振り向いた。
「何が?」
「こんな風に言われて、嫌じゃないの?」
何故だか、私よりも傷付いた表情をした
エイジが私の瞳を見つめた。
「……しょうがないでしょ」
笑みを含めて呟いた言葉は、エイジを諭すため?
それとも、自分に言い聞かせるため?
「私が女である限り、しょうがないんだよ」
顔を歪ませたエイジに、それが後者であることを思い知らされる。
「……A、俺らのこと、置いていかないでね」
そう言い残して、部屋から出ていってしまったエイジを目で追う。
「それは、私の台詞なんだけどな」
小さく呟いて、編集作業に戻る。
パソコンの中で馬鹿みたいに笑う私が不思議で堪らなかった。
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てん(プロフ) - 面白かったです！もっと評価されて良いくらい！続き楽しみです！ (2020年1月2日 23時) (
レス) id: 09173bd832 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 続きないんですか？ (2019年12月18日 9時) (レス) id: 5893e9c41f (このIDを非表示/違反報告)
りお - 面白かったです！ 続き気になります！ 頑張ってください！ (2019年11月16日 15時) (レス) id: b0a4c100df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：朝凪 | 作成日時：2019年8月23日 22時
