夢 ページ27
「A、」
誰かが、あたしの名前を呼んでいた。
あたしは澄みきった白い入道雲の浮かぶ空を見上げていて
その声を聞いて目線を声のする方へと向ける。
そこにはそらが立っていて、あたしのことを見て目を細めて
幸せそうに笑う表情に胸が締め付けられる。
「なに、」
「俺さ、Aのこと好きだよ」
照れもせずに、そんな恥ずかしい台詞を言ったそらがまた笑う。
その時、生ぬるい風が吹いてあたしの短い髪を揺らした。
幸せだった。
あたしには勿体ないくらいに。
いつだってそらはあたしの太陽のような存在で、
そんな彼があたしのことを見てくれていることが
あたしにとっては、奇跡にも等しいことだったのだ。
「なに、馬鹿なこと言ってんの」
そんなあたしの言葉を聞いて彼は「それな」なんて照れ臭そうに笑う。
「……そら」
名前を呼べば、「ん?」と優しく目を細めて
あたしの言葉を待っている君。
そんなちっぽけなことでさえ幸せ以外のなにものでもなくて。
何故だか、どうしようもなく泣きたくなった。
「――――。」
「……夢、」
私は目を覚ました。ひどく懐かしい夢に、ちいさく息を吐く。
「寝落ちした…」
昨晩、編集をしていたうちにいつの間にか寝てしまったようだ。
机に伏せていた体を起こせば私の背中から何かが落ちる。
視線を移すと、それはどうやら誰かの上着だった。
私よりも、少しだけサイズの大きい上着。
「あ、起きた??」
そんな声が聞こえて、声のした方を向けばそらちぃが編集をしていた。
「何してんの…!?」
私が慌てて立ち上がればそらちぃは得意気に片方の口角を
持ち上げて私に笑って見せる。
「A、最近疲れてそうだったから、やっといた。
俺のこと褒めてくれても良いんだよ?」
冗談めかした彼の台詞に優しさが見え隠れしていて
私は思わず頬を緩めてしまう。
「ありがとそらちぃ。さすがイケメン」
「お、もっとちょうだい」
「これ以上褒めるとこない」
「おいおい」
「あいちてる」
「おえっ」
「てめえ」
私が笑えば、そらちぃも顔を綻ばせて笑った。
うん。やっぱりこの距離感が一番良い。
近すぎてしまえば、苦しくなるだけだから。
私はあの懐かしい夏を思い出しながら、心から思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 70人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
てん(プロフ) - 面白かったです！もっと評価されて良いくらい！続き楽しみです！ (2020年1月2日 23時) (
レス) id: 09173bd832 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 続きないんですか？ (2019年12月18日 9時) (レス) id: 5893e9c41f (このIDを非表示/違反報告)
りお - 面白かったです！ 続き気になります！ 頑張ってください！ (2019年11月16日 15時) (レス) id: b0a4c100df (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：朝凪 | 作成日時：2019年8月23日 22時
