only you

絶望（想side） ページ13

高校最後の夏休み、Aちゃんとたくさん思い出をつくりたい




そう思っていたのに。




夏休みに入る直前、





Aちゃんは何も言わずに転校した






先生に聞いても家の都合で東京に引っ越したとしか教えてくれなくて、



電話もメッセージも送ったが
連絡先が変わっていたため


繋がりが一切、なくなってしまった



最後に話した日




いや、Aちゃんと話したのが最後になってしまった日




想「Aちゃん、また明日ね」



『・・・うん、また明日』



そう言って小さく笑い、手を振って教室を出る



Aちゃんの姿




もっと早くAちゃんの異変に気づいていれば




もっと早く俺が話しかけていれば




もっと早く、気持ちを伝えていれば





そんな後悔ばかりが押し寄せて、高校最後の夏休みは
味気なくて受験勉強と部活と家を往復する日々となって終わった





.





.





それからあっという間に時間が流れ


風が冷たくなってきた頃、


青羽に告白されて


Aちゃんを忘れるために付き合った





それなりに楽しかった





けど、





ある時から耳の調子が悪く、その状態がずっと続いていたため病院に行った



" 若年発症型両側性感音難聴 "

" 耳が聞こえなくなります "



そう医者から言われて、

暗闇のどん底に落とされたようだった



大好きな音楽が聞けなくなる

周りの声が

音が聞こえなくなる



"音のない世界"に恐怖を感じ、
息苦しい毎日を過ごした



卒業後、上京することが決まり

それを機に家族以外の人と連絡を絶ち、

"音のない世界"で新しく生きていくことを決めた



もちろん青羽にも



「好きな人がいる、別れたい」



と一方的に別れを告げ、連絡先もスマホも変えた







すごく迷ったけど、湊斗とも関係を断った






本当は湊斗だけには言おうと思った


でも、
俺自身が耳が聞こえなくなることをまだ受け入れられていない



音がないってどんな感じなんだろう




音楽が聞けなくて、音が聞こえなくて生きていけるのだろうか




周りからどんな目で見られるのだろうか




サッカーできるのかな




普通の生活を送ることができないことのショックと、


意地なのかプライドなのか分からない感情で


湊斗にも言うことができずに




家の自分の部屋の片付けを進めた

忘れられない（想side）→←思い出せない（想side）

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す