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曇る視界の先に微かに見えたのは見覚えのない天井。何度が瞬きをして、視界がはっきりとする。
不意に鼻を掠めたのは薬品の独特な匂いだった。まだ体は重く、暫くの間はボーっと天井を仰いでいた。
私の記憶違いが無ければ……最後に居たのはキャバクラ店のVIPルームだったはず。春ちゃんと蘭が銃を向け合っていて……それまではちゃんと覚えている。
春ちゃんと蘭の間に割って入ってから、急に胃が痛くなって何かを吐き出した後からの記憶は全くない。薬品と見慣れない天井というヒントから辿りついた答えは、私は病院に居るという事だった。
重たい体を起こし、どうすれば良いのだろう……と辺りをキョロキョロとしているとガラガラと扉の開く音がした。
「……A。」
やけに弱くて消えてしまいそうな声の主は蘭だった。
わなわなと腕を震わせて、近づいてきたかと思えば心配の声よりも先に怒号が部屋に響いた。
「お前、いい加減にしろよ!俺に迷惑かけやがって、マジでふざけんじゃねえよ!」
……私、一応意識無くしたから病院のベッドで寝かされていたんだよね?第一声が心配よりも「俺に迷惑かけやがって」なんて旦那なのに愛が無さすぎる。確かに迷惑はかけたかもしれないけど、説教垂れるのは今じゃなくたっていいのに。
言い返す元気も無く、適当に謝ろうとしたら蘭がぎゅっと力強く抱きしめてられた。
「……マジで笑えねえ事すんなよ。急に血ぃ吐くし、意識失くすしで……死んじまったらどうしようとか思ったら凄え怖かった。……俺より先に死ぬなんて絶対に許さねえからな。」
ガタガタと抱きしめている腕が振動し、私の身体にもそれが伝わってくる。鼻の啜る音が聞こえてから、ぽつりと何かが降ってきた。
「……蘭、泣いてるの?」
「泣いてる訳ねえだろ。」
こんな時くらい、嘘つかなくたっていいのに。見上げた先にはボロボロと涙を流す蘭が居た。蘭の泣き顔なんて見たの何時ぶりだっただろうか。
俺より先に死ぬなんて絶対に許さねえからな、か。それは私だって同じ気持ちなのに、本当に蘭は狡い。でも狡いのは私も同じ。好きだから、蘭にちゃんと言わないといけない。
「蘭、今までごめんね。私……ずっと蘭の事、騙してた。蘭に好かれたくて、一緒に居たくて……弱い女のフリしてた。蘭が好きになってくれた私はもういない。蘭の理想の私にはもうなれない。……だから、捨てるならもう捨てていいよ。」
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メイ(プロフ) - 最後まで読みました!!めっちゃ面白かったです!!ありがとうございました!! (4月14日 19時) (レス) @page50 id: 036127fc08 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - はるかさん» 初めまして、コメントありがとうございます✨️そう言っていただけてとても嬉しいです…!ありがとうございます。完結まであともう少しお付き合い下さい♡ (3月26日 0時) (レス) id: 4a9b8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
はるか - 作者から作品を探すぐらいさきなさんの書くお話が好きです。更新楽しみにしています。 (3月24日 1時) (レス) @page37 id: 2fa442bcb8 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - リハさん» 初めまして、コメントありがとうございます✨️とても嬉しいです♡更新ちまちま進めていきますね🫶🏻 (3月16日 0時) (レス) id: 4a9b8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
リハ - とても面白くて大好きです!更新ファイト❣️ (3月15日 22時) (レス) @page28 id: fb4d5611fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきな。 | 作成日時:2024年2月23日 0時