03 蘭side ページ4
言い返せずに口を噤んでいると、Aは満面の笑みを浮かべて、やっと俺と視線が重なる。
俺の知らないAがじわじわと心を支配して、侵略してくる感覚を覚えた。
それ程までに見た事のない姿に動揺し、脳裏に焼き付いてしまいそうだ。
「でも、安心して。1番は蘭だよ♡蘭だってそうだから私の所に帰って来てくれてる事も分かってるし。」
「いい加減にしろよ、マジで。」
きゅるん、とした瞳にあざとい困り顔。俺には1度も見せた事のない表情。こんな表情も出来たのかと初めて知る。
「怒ってるの?殴る?蹴り飛ばす?それとも、殺す?」
物騒な言葉を可愛らしい形の唇と妙に明るいAの声色で聞きたくない。薄ら笑いを浮かべているAに全身からゾワッと凍り付いていく。
それと同時に沸々と煮え立つような怒りが生まれてくる。
勢い任せに胸倉を掴むと、俺よりも小さな体は揺れる。それなのに、Aの表情は変わらず笑みを浮かべたままで、抵抗の1つも見せず、微動だにしない。
「殴るんだ。……蘭の方が先に浮気したくせに。」
声色に宿された、少し憂いを帯びているようなもの悲しさ。空気を伝って吐いた言葉には鉛のような重たさを感じた。
Aを殴った事は1度もない。他の女と違って、守ってやりたいし守ってやらなければ容易く傷ついてしまう程、繊細な存在だと思っていたから。
でも、今……俺の目の前に居る彼女は果たして俺が守ってやりたいと思った女なのか。俺に見せて来た、弱々しい姿は愚か、控えめな姿なんて面影すらない。
パッと手を離せば、Aは掴まれた胸元に手を当て服を伸ばす仕草をしてみせる。大きな欠伸をしてから口をゆっくりと開く。
「私、久しぶりにお酒飲んで眠いからもう寝る。おやすみ〜。」
舐め腐った態度で手をフリフリと左右に揺らして横切っていく。目で追いかけ、Aの後ろ姿が見えなくなるまでぼんやりと眺めていた。
人生において、安定だけじゃつまらない。最愛の妻がいる事に幸せを感じていたけれど、それだけじゃ満たされないナニかがあった。
だから、刺激を求めていた。ただ、それだけだった。醜くて歪んだ欲望が生まれた事によって、関係は脆く崩れ始めている。
……俺が、Aを変えてしまったのか?
でも、それ以外考えられない。
Aは何時から俺に甘えてきたり愛情表現を何年も前から示さなくなった。とっくにあの時期から俺に愛想を尽かしていたのかもしれない。
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メイ(プロフ) - 最後まで読みました!!めっちゃ面白かったです!!ありがとうございました!! (4月14日 19時) (レス) @page50 id: 036127fc08 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - はるかさん» 初めまして、コメントありがとうございます✨️そう言っていただけてとても嬉しいです…!ありがとうございます。完結まであともう少しお付き合い下さい♡ (3月26日 0時) (レス) id: 4a9b8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
はるか - 作者から作品を探すぐらいさきなさんの書くお話が好きです。更新楽しみにしています。 (3月24日 1時) (レス) @page37 id: 2fa442bcb8 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - リハさん» 初めまして、コメントありがとうございます✨️とても嬉しいです♡更新ちまちま進めていきますね🫶🏻 (3月16日 0時) (レス) id: 4a9b8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
リハ - とても面白くて大好きです!更新ファイト❣️ (3月15日 22時) (レス) @page28 id: fb4d5611fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきな。 | 作成日時:2024年2月23日 0時