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あー……ダメだ。
夜に物事を考えると本当に碌な思考回路にならない。メイク落としてさっさと寝た方が良い。
「……蘭、」
眠りについている彼に呼びかけても返事が返ってくるはずもない。ポツリ、と目から涙が零れて来る。温かな涙が頬を伝ってぽつぽつと床を濡らしていく。
鼻を啜る音と蘭の寝ぼけた声が重なった。急いで涙を拭うと、不意に目を開いた蘭と視線が重なる。
「A?……泣いてんの?」
半分寝ぼけている所為か、妙に優しい声だった。今、そんな優しい声を聴いたら余計に泣けてきてしまう。
蘭の問いかけに答える事が出来ず、言い淀む。
「A、答えろよ。」
まだ気怠さを残しながら、蘭が身体を起こす。唇を噛みしめて、痛みは唇へと集中する。涙は上手く引っ込んでいき、唇が震えないよう平然を装った。
「……別に泣いてなんかない。欠伸しちゃったら涙出ただけ。」
「そうかよ。……で、今日は何処ほっつき歩いてた訳?」
優しい声は淘汰し、すぐにいつもの冷ややかな声色へと変わった。やはり、先程の優しい声は寝ぼけていただけだったらしい。
「竜胆くんとご飯行ってた。これは浮気じゃないからとやかく言うのは勘弁してよ。」
「それ本当か?明日、竜胆に確認するからな。」
「どうぞご自由に。」
まだまだ続きそうな冷戦。蘭と向き合った所できっとお互いの主張を譲らず平行線になってしまうだろう。
それならば、最初から話し合いなんて不要だ。
「可愛げねえなぁ……。めそめそしてて弱っちいお前の方が幾分マシだったわ。」
「可愛げがなくて結構です。もう蘭の理想だった言う事素直に聞く都合の良い女は居ないので、残念でした。」
背を向けて自室へと戻っていく。背中越しに蘭の怒りを含んだ声が聞こえてきたけれど、いつもと違って冷静ではあったと思う。
今の蘭の発言で確信をする。
……やっぱり、こっちの私は愛してくれないのだろうと。
素直で従順でか弱くて言う事を何でも聞くAじゃなければ、彼は愛してはくれない。
このままだと本当に離婚しちゃうかもしれない。蘭が望めば、離婚するつもりではいる。
でも……両親も友達も捨てた私が今更頼る訳にもいかない。最悪、カクちゃんを頼りに暫くは匿ってもらうくらいしか方法が思い浮かばない。
弱っちいのは、確かに演技だった。……思い返せば、蘭に言われた言葉に傷ついて泣いていたのは、本当の事だったと今更ながら気がついた。
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メイ(プロフ) - 最後まで読みました!!めっちゃ面白かったです!!ありがとうございました!! (4月14日 19時) (レス) @page50 id: 036127fc08 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - はるかさん» 初めまして、コメントありがとうございます✨️そう言っていただけてとても嬉しいです…!ありがとうございます。完結まであともう少しお付き合い下さい♡ (3月26日 0時) (レス) id: 4a9b8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
はるか - 作者から作品を探すぐらいさきなさんの書くお話が好きです。更新楽しみにしています。 (3月24日 1時) (レス) @page37 id: 2fa442bcb8 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - リハさん» 初めまして、コメントありがとうございます✨️とても嬉しいです♡更新ちまちま進めていきますね🫶🏻 (3月16日 0時) (レス) id: 4a9b8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
リハ - とても面白くて大好きです!更新ファイト❣️ (3月15日 22時) (レス) @page28 id: fb4d5611fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきな。 | 作成日時:2024年2月23日 0時