18 ページ19
それは紛れも無く本心だった。
既に失われていた自尊心が少しだけ取り戻せた気がした。
「本当の事言っただけだし。……俺なら、そんな顔させねえのに。」
竜胆くんの瞳に私はどう映っているのだろう。それは彼にしか分からない。私がどんな顔をしているのかさえも想像つかない。
でも、そんな顔させない……なんて言わせてしまう程、私は酷い顔をしているのだろう。
茶化す気が一切ない顔で言われたら、蜜の様な甘い言葉に翻弄されてその蜜を吸い付いて縋りついてしまいそうだ。
彼から視線を外し、窓の外を見てこれ以上は見ないフリ、聞こえないフリをする。
2人の間に流れる沈黙。静寂をかき消すみたいにタクシー内のラジオから流れてくるラジオ番組の賑やかな話し声。
互いに無理やり言葉を紡ぐ事は無かった。
自宅マンションにタクシーが停車し、降りる際に竜胆くんを一瞥する。
「今日はありがとう。」
「……またな、Aさん。」
タクシーの扉が閉まり、発車する。竜胆くんが乗っているタクシーが見えなくなるまで見届けていた。
家の中は妙に静かだった。リビングは灯りがつけっぱなしの状態で、ソファには大きな図体の蘭が深い眠りについている。
私が怒ったからって寝室で寝るな、なんて言っていない。私が帰っていない時くらいベッドに入って眠ればいいのに。
とはいっても、寝起きの悪い蘭の事だ。無闇に起こして機嫌が悪くなってしまってはたまったモンじゃない。
起こさないように客専用の毛布を引っ張り出してそっと蘭の身体の上に掛ける。
眠っている蘭の顔をじっと眺めている。昔と比べると整った顔立ちは相も変わらずだが、やっぱり歳をとった……なんて思った。
時が流れているのだから当たり前だけれど、そういう意味じゃなくて。酷く疲れた顔が目立つようになった気がする。
こんな事を考えても未来は変わらないけれど、もし蘭が反社じゃなかったら。
2人でもっと幸せな未来を築いていけたかもしれない。たらればの話をしたってどうしようも無いのは分かってる。
反社じゃなければ、何だかんだ優しかった蘭は変わらないままだったと思ってる。
付き合って、結婚するまでは毎日が楽しくて時間が経つのがあっという間だった。メールするのも電話するのも、全てが幸せを感じられた。
結婚して、暫く経ってからは……電話来るのもメッセージが来る事も、今日は何を言われるのだろうと思うようになっていた気がする。時間を巻き戻せるのなら、巻き戻したい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 450人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
メイ(プロフ) - 最後まで読みました！！めっちゃ面白かったです！！ありがとうございました！！ (4月14日 19時) (
レス) @page50 id: 036127fc08 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - はるかさん» 初めまして、コメントありがとうございます✨️そう言っていただけてとても嬉しいです…！ありがとうございます。完結まであともう少しお付き合い下さい♡ (3月26日 0時) (レス) id: 4a9b8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
はるか - 作者から作品を探すぐらいさきなさんの書くお話が好きです。更新楽しみにしています。 (3月24日 1時) (レス) @page37 id: 2fa442bcb8 (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - リハさん» 初めまして、コメントありがとうございます✨️とても嬉しいです♡更新ちまちま進めていきますね🫶🏻 (3月16日 0時) (レス) id: 4a9b8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
リハ - とても面白くて大好きです！更新ファイト❣️ (3月15日 22時) (レス) @page28 id: fb4d5611fc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さきな。
| 作成日時：2024年2月23日 0時
