浮気、されちゃった。【灰谷蘭】

10 蘭side ページ11

Aの態度が変わった以外は得に変化は無い。

今まで通りに家事はやってくれているし、弁当も作ってくれる。玄関まで見送る事も辞める事はしない。

「いってらっしゃい。」

俺の顔を伺う事もせず、暢気な笑顔でゆらゆらと手を振って見送られる。オドオドしながら機嫌を伺っていた以前のAとは打って変わって大違い。

本当に同一人物なのか、と疑ってしまう程だ。

感情を爆発させてしまって自暴自棄になっているのか。それとも素がこっちなのか。

俺にはもう分からない。……でも、素がこっちだとしたら今までどれだけ我慢を強いていたのだろうか。

アジトに着くと、鶴蝶と目が合う。何やら変な顔をしながら俺の元へと近づいてくる。怪訝にしている俺とは裏腹にどこか気まずそうだ。

「鶴蝶、どうした？」

妙な空気に耐え切れず切り出してみると、鶴蝶は頭を下げる。

「蘭、悪い。実は昨日Aと一緒に居たんだ。……隠すのはやっぱり違うと思って。」

モヤモヤとしていた気持ちが少し晴れる。昨晩、Aが一緒に居たのは鶴蝶だったのか。なら、問題は無い。

俺の嫁がAという事を知っているから変な気を起こす事も無いだろうし、この誠実な態度を昔から俺もよく知っている。

それに鶴蝶とAは同じ歳という事もあって、仲が良かった事も分かってた。

「鶴蝶ならいいよ。……どうせAが呼びつけたんだろ？鶴蝶が嫌じゃなければAの相手してやって。」

「……蘭はそれでいいのか？」

「鶴蝶がAに変な気起こすとは思ってねえし。両親も友達も無理やり捨てさせて俺と結婚したからな。鶴蝶しかマトモに話せる友達いねえだろうし。面倒な事頼んで悪いな。」

自分で言って思い出した。……俺はAと一緒になりたくて、両親も友達も無理やり捨てさせて俺と結婚させた。

Aを閉じ込めるように縛り付けていたクセに俺は自由が良いなんて虫が良すぎる話だ。

捨てさせて、俺しか頼れる存在が居ないのを良い事に傲慢な態度で振る舞い、好きに操っていた。

挙句の果てには、俺が他の女に現を抜かして嫁を蔑ろにするという最低な行為を働いていた。

Aが怒るのも無理はない。

「俺が構わないが。蘭、Aの事をもう少し大切に扱ってやってくれ。昨日、Aと電話していたのを聞いていたけど、流石にアレはどうかと思うぞ。」

歳下に窘められるアラサーとかウケる。でも、鶴蝶の言う事は何1つ間違っていない。

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