ちょっと吐いてきていいですか？

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「それで、どうだったんですか？」
「まあ、いい感じ」
「ええ。恋人の距離感は掴めた気がする」

それは良かった。
この間とは異なり、笑顔で機嫌の良い二人を見て、自分のアドバイスが役に立ったようでほっとする。
無理矢理恋人同士のフリをするのでなく、偽物でも本当の思い出を重ねれば、本物に近付けるのだと思う。多分。

「でもまだ足りないな」
「そうね。他のカップルを見ても、私たちには足りないものがある気がした」

でしょうね…。
口には出さず、心の中で呟く。そもそもこの二人には、クサイ言い方かもしれないが、愛がない。恋もない。つい数日前まで名前さえ知らなかった同士だ。本当のカップルと異なるに決まっている。
足りないものはそれだろう。

「もっと思い出を作るべきなのかな」
「そうだな」
「はい!?」

論点が違いすぎる!!そうじゃないと思いますけど!?出かけた言葉は喉で突っかかって出てこない。
…でも、恋心を演出するためにはある意味近道である。もしかして、なんて考えも俺の中にはあるのだ。
最後までやり切ろう、と決心したら、隣にいた今日も付いてきてくれたクロがまるで、俺の心の声が聞こえているかのように、タイミングよくため息をついた。それに思わず苦笑いをこぼして、前に向き直る。

「だから今度は動物園に行ってみようと思うんだ」
「いいと思いますよ」
「えっ。私は水族館がいい」
「彼女の意見を尊重するのも彼氏の役目？」
「ご、ごめん…。さすがに我儘すぎたね」

申し訳なさそうにするAさんのほっぺを引っ張って、「うそうそ。いいよ」と御国さんは笑った。よく見るニヤニヤした笑顔じゃなくて、愛情に満ちた、でも御園に向けるのとは少し違う、そんな優しい笑みだ。一瞬、俺のもしかして、が真実のように思えた。

「…今のカップルぽかった？」
「えっ。あ…そ、そうですね。すごい自然で…いいと思いますよ」

しかしその人が発した次の言葉に、俺の甘い考えは色を失う。分かってはいたが、少しショックを受ける。やはりこの人は意地悪で、ずるい人だ。

「すごい良かった。これなら、吊戯さんも信じてくれるかも」

最初の目標を忘れずに、Aさんはそう淡々と言った。

「じゃあ、そろそろ帰ろっか。真昼くん、ありがとね」
「そうね。真昼君、ありがとう」
「いいえ、それじゃあ…」

出口まで二人が寄り添って歩いていく。

「…カップルにしか見えない」

それすらも二人の計算のうちなのだと思うと、何だか切なかった。

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