私たちは嘘をつきました【紫】 (ページ32)

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キラキラした目でこちらを見る中山さんに思わず少し目を逸らしてしまった。

…どんな関係？

向井さんという弱みを握られて深澤さんに片想いっていう設定でやってきて、これを中山さんに話す訳にもいかないし…。でも話とかは全然世間話だしなんて事ない話しかしてないし…これって世間的には友達？ってやつなのかな？それとも知り合い…？

あの時のことを思い出す。

"ねえ、俺たちの関係は続けていようよ"

…それって、どういうこと？だろう。私が深澤さんを好きっていう設定を？

それとも今までの何気ないやりとりをってこと？

改めて私と深澤さんて曖昧というか、名前のない関係なんだと感じた。

「眉間に皺、寄ってるよ」

中山さんは少し笑いながら私の眉間に人差し指で触れると伸ばすような仕草をする。

『…友達、といいますか、知り合い、と言いますか…』

「………そうなのねえ」

そっかぁ、あらぁ、本当に一方通行なのねえと小声で聞こえた気がして『えっ？』と聞き返したけれど「あ、違うのよ違わないけれどこっちの話」と手に持っていたノンアルのビールを流し込んでいた。その後静かにグラスを置いて少しため息をついた。

「私ね…マネージャーの立場としてはあなたは今とてつもないスピードで1人の女性俳優としての道を登っていってる中で、やっぱり有名になればなるほど…ほら、スキャンダルというか記者が追ってくるから、今は深澤さん、とかそういう人と関わることはリスクでしかないと思うの」

カラカラ、とガラスの氷を鳴らして少し伏し目がちな中山さんに私は『…そうですね』と返答することしかできない。本当にその通りだから。お互いにとって関わること自体がリスクなんだろう。今まではそこまで深刻に考えてなかったけれど、深澤さんも今をときめくアイドルなんだから。

「でもね、私はあなたのこと娘みたいな感覚で思っているから、前も言ったみたいに本当に仕事人間なとこあるし、今まで演技のことでしか悩んだりしてなかったのが、こうやってまた新しい人と出会って、その中で色んなことを考えたり思ったりしているのが嬉しくて」

だから、仕事も、仕事以外のこともどうか今からは大切にしてね。と優しい声で言われて私は戸惑った。
初めてそんな風に言われて、いかに中山さんが自分のことを大切に思ってくれているかを実感して嬉しかったのと、今私は深澤さんで悩んでいることに改めて痛感したからだ。