私たちは嘘をつきました【紫】 (ページ11)

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恋するフリ始めました【11】ページ11

「それで本題なんだけれど、実は俺ある偉いところの人の娘さんを猛プッシュされててさ～」

今日は大事な話だしアルコールはやめとこうかって言った深澤さんが烏龍茶を片手に話し始めた。

『猛プッシュですか』

「そうそう～この業界じゃそんな珍しくない話なんだけれど。俺はその偉い人のことあんまり好きじゃなくてさ～、前にその娘さんも一度会ったんだけれどどうも付き合うのはちょっと～…となって」

珍しくない話なんだ…全然知らなかったな…

「でも真正面から断るのはほら、今後のことを考えるとリスクだしどうしようかな～って考えてたところにAさんとぶつかったんだよね」

深澤さんの話にひたすら頷きながら、私もカルピスを少しずつ口に入れる。今は甘いのもよくわからない。

それとどういうタイミングでぶつかってしまったんだ私…

「で、俺閃いちゃったの。今ある人から好きって言われて娘さんにそんな中途半端な状態でお付き合いするのは失礼だからって丁重にお断りできるんじゃないかって」

『と言うことはそのある人って言うのが…私ってことですか』

「その通り」

後ろに星マークがつきそうなくらい明るく言う深澤さんに思わずため息をついてしまいそうになる。

そういうことだったのか…

「ほら、俺を好きってことにしていたら俺は偉い人とその娘さんの面を立てることもできるし、Aさんも康二と今より話ができる良い機会だと思わない？お互いウィンウィンじゃん」

『な、なるほど…？』

確かに見たところ向井さんと深澤さんはとても仲が良いから、深澤さんと話すってことは向井さんと話す機会も増えるってこと…

『でも、向井さんには好きな人がいますし、そんな邪魔をするわけには…。それに私は向井さんとどうなりたいとかそういうのはなくて…』

これは本心だ。ただ私は楽しそうに笑う向井さんを遠くからでも見ることができれば良いと思ってるし、向井さんの人生に入ろうなんてそんなことを思ってはいない。

カランとコップの中の氷が少し溶けている。私が両手で持っているため、きっと体温で溶けるのが早いのだろう。どう考えているのかは読めないけれど、深澤さんは頼んだ焼き鳥を頬張って「んー…」と壁に貼ってあるチラシを見ていた。

「でもAさんが近くにいなかったら、写真のこと、ぽろっと言っちゃいそうだなぁ」

少しを間を置いて優しい声と共にまた天使じゃない方の笑顔でこちらを見ている深澤さんがそこにはいた。