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月曜日、1週間の仕事を思うと少し憂鬱な気持ちだ。それでも時は止まってくれないので、BGM代わりにつけていたテレビを消し、いつものヒールを履いた。今日は可燃ごみの収集日、まとめておいたゴミ袋も忘れずに持つ。
「行ってきます」
誰もいない部屋にそう言って部屋を出た。
ゴミ捨て場に見覚えのある青いジャージ姿を見つけた。細身な人だとばかり思っていたが、半袖から伸びる腕は案外逞しい。何か運動でもしているのだろうか。
小さなゴミ袋をゲージに投げ入れた冨岡さんに「おはようございます」と声をかければ、振り向いて首を傾げられる。しばらくしてぼそ、と呟く声が聞こえた。
「・・・・・・・・・・・・隣の」
「隣の部屋のAです」
「A、さん」
「土曜はケーキありがとうございました」
ケーキと言われてやっと繋がったのか、「あぁ」と納得したような表情になった彼は、
「宇髄からあの後話をきちんと聞いた。夜遅くに迷惑をかけたらしいな。すまなかった」
と、土曜はかたくなに謝ろうとしなかったのが嘘のようにすんなりと謝罪を口にした。顔色は良かったが、あの時はやはり二日酔いが酷く機嫌でも悪かったのだろう。
「いえ、大丈夫ですよ。むしろ美味しいケーキを頂いてしまって申し訳ないくらいです」
わたしも持っていたゴミを投げ入れ、ゲージを閉める。
そろそろ駅に向かわないと予定の電車に遅れてしまう。それでは、と彼と別れようとするが、最寄り駅は同じなのだから自然と足が向く方は一緒である。
同性の中では歩くのは早い方だが、男性には敵わない。だから冨岡さんは私より先にどんどん歩いていくと思っていたのに、何故か彼は私の隣を歩いている。
・・・無言が痛い。
「とみお・・・」
「誰かと一緒に住んでいるのか」
このまま駅でも電車でも一緒なのでは、と少し不安になり、冨岡さんはどこの駅まで乗るんですか、と聞こうした時だった。同じタイミングで口を開いた冨岡さんにそう訊ねられる。
「一人暮らしです」
「・・・ただいまと行ってきますを言っているだろう」
あぁ、隣の部屋に聞こえていたのか。なんだか気恥ずかしい。
「姉と住んでいた癖で、一人暮らしを始めてもつい言ってしまうんです」
「・・・そうか」
今まで無表情だった彼の口角がほんの少しあがる。
・・・もしかして一人で寂しいやつだ、とでも思われているのか。少ししか話していないが、冨岡さんは不思議な人。そんな印象であった。
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作者名:おちゃっぱ | 作成日時:2020年1月22日 21時