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(side giyu)
部活の指導を終えて帰宅するという煉獄と宇髄に連れられてやってきた竈門ベーカリー。扉を開ければ食欲をそそる香りに腹の虫が鳴く。
「よォ、竈門。今日も買いに来たぜ」
「宇髄先生!煉獄先生に冨岡先生も!いらっしゃいませ!」
炭治郎への挨拶もそこそこにパンを選ぼうとトレーに手を伸ばすと、ふと見覚えのある人物が出口に向かうのが目に入った。
「Aさん」
考えるよりも先に口からぽろりと彼女を呼び止める言葉が出ていたことに自分でも驚く。
この前会った時よりもだいぶ短くなった髪。「冨岡さん・・・」と呟いた声が聞き慣れた彼女のものでほっとした。
まさか煉獄が彼女を昼食に誘うとは思わず内心穏やかではなかったが、乏しすぎる表情筋のおかげか、誰も俺の動揺には気がついていないようだ。
炭治郎には
「そわそわしてる匂いがします。何かあったんですか?」
と聞かれてしまったが。
―――――――――――――――――――――
食べながら話すことができない俺はひたすら宇髄とAさんの会話を聞くことしかできないため、ころころとかわる彼女の表情を眺めながらぶどうパンを咀嚼する。彼女は意外と豪快に笑うことに気が付き、知らなかった姿を見られたことを嬉しく思った。
時折にやりとこちらを見やる宇髄の足を机の下でこっそりと蹴飛ばす。しかしどこ吹く風で、Aさんとの会話に華を咲かせる宇髄が悔しくて、いつもよりもはやく食べ進めようとパンを頬張った。(それなのに俺の3倍は食べている煉獄よりも遅かったのはどうしてなんだ)
帰り際、反対方面に歩き出した宇髄と煉獄から、言い忘れていたことがあったと呼びとめられた。
「冨岡の想い人はAさんだろう。明るくていい子だな」
煉獄は腕を組んでワハハと豪快に笑う。声が大きい。Aさんに聞こえていたらどうするんだ。
「ばっさり髪切ったんだな。ありゃ何かあったぜ」
「何かってなんだ」
宇髄の言葉に問えば
「そりゃぁ、女が髪をばっさり切るのは失恋だろ」
と、当たり前のように返された。
「ということは彼女は傷心中だな!冨岡、彼女の話を聞いてやるべきだ!」
「もちろん髪型が似合ってることも褒めるんだぞ」
口々に俺のすべき行動を述べる二人の言葉を頭に叩き込む。
褒める、それから話を聞く。
「分かった」
こくっと頷いて二人と別れ、Aさんの元へ足を進める。
帰り道、宇髄と煉獄に言われたことをきちんとやろう。
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作者名:おちゃっぱ | 作成日時:2020年1月22日 21時