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(side giyu)


土曜出勤を終えてアパートに帰ると、空き部屋だった隣の202号室にダンボールが運び込まれていた。作業着の引越し業者に混ざって荷物を運び入れる小柄な女性に「202に越してきたAです。よろしくお願いします」と挨拶をされたが、隣だからといって今後そこまでの関わりはないだろうとそっけなく返す。特に気にした風もなくぺこりと頭を下げて去って行った彼女を見送るでもなく俺は自分の部屋の鍵をあけた。






「行ってきます」


お世辞にも良いとは言えない防音。薄い壁越しにかすかに聞こえた隣の部屋の声。ドアの開閉音の後、カツカツと硬い足音が遠ざかっていく。

(昨日の女性の他にも誰か住んでいるのか。・・・だとしても俺には関係ないな)


―――――――――――――――――――――


「ただいま〜」


(今日は俺の方が帰宅するのが早かった・・・今朝は俺よりも先に出ていったのに)


気がつけば隣の部屋から聞こえてくる「行ってきます」と「ただいま」が少しだけ楽しみになっていた。聞けた日には表情筋が乏しい自覚のあるこの顔もほんの少しだけ綻ぶ。


(隣の部屋の女性の声を聞いてにやけるとは俺は一体何を・・・)


緩んだ頬をおさえ、引き締める。明日も仕事だ、さっさと寝てしまおう。

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作者名:おちゃっぱ | 作成日時:2020年1月22日 21時

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