2、黒衣の獣 ページ5
芥川は、一刻も早くAに会いたかった。
前に怪我がないなら来るなと言われたので、大怪我をするまで仕事に打ち込んでいた。
いつも加減を間違えてすぐに終わってしまうのだが、敵組織の構成員がやけに怪力で予想以上の怪我になってしまった。
しかし、不自然に敵が強かったのも、黒い外套に血が染み込んでより黒くなるのも、彼にとってはどうでもいいことなのだ。
Aさんに、会いたい。
あの白衣の彼女の事を考えるだけで、痛みは和らぐようだった。彼女に会うためならば、と痛みすら幸せに繋がっていく。
彼もまた、白衣の麗人に魅せられた一人である。
▽
診療所に静かな夜が訪れた。
オレンジ色の光が、分厚い医学書を読むAさんの横顔を浮かび上がらせる。
入れてもらった珈琲を1口飲んだところで彼女がこちらを向いたので、驚いて椅子から転げ落ちそうになる。
…危ない、また吹きだす所だった。
落ち着いて座り直すと、彼女の瞳が扉をじっと見つめているのに気がついた。
「どうかしましたか?」
「…そろそろ、芥川くんがくるね」
どうして分かるんですか、と口を開こうとする。
しかし、ベルの音がそれをとどまらせた。
足音が近づいてくる。芥川か。
足を引きずっているような音も混ざっている。
Aさんは少しだけ目を細めると、診察室の扉をこちらから開けた。
「芥川くん」
「Aさん…」
「その怪我はなに?ずいぶんと満身創痍だけど」
…やばい、本当に芥川だ。
まだ僕の存在に気付いていない様子の芥川は、想像もできない程優しい表情をしていた。
「Aさんは、怪我をしていないなら来るなと仰ったので」
「ああ……だからってわざわざご丁寧に怪我をしてこなくてもいいんだけど」
「貴方に会うために仕事を頑張りました」
耳を疑った。
まてまてまて、あれは本当に芥川なのか?
もしかしたら別人の誰かかもしれない。痩せていて肌が青白くて、年中黒い外套を羽織っている別人なのかもしれない。
いやそこまでいくとむしろ芥川なのか?
しばらくAさんに見惚れていた芥川のようなヤツは、ふと診察室の中に僕を発見した。
ぎろり。
……ああ、あれは芥川だ…。
あんなに僕のことを憎々しげに睨める人間はやつ以外にいないだろう。
なにを期待していた訳でもないが、まあ絶望。
「Aさん、なぜここに人虎がいるのですか」
Aさん、よく眼光だけで人殺せそうな奴と至近距離で会話が成り立ちますね…?
ああ神様、僕はもう……
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白瀬(プロフ) - 皐月さん» ありがとうございます!不定期更新ですが、どうぞよろしくお願いします…! (2019年7月25日 23時) (レス) id: 00ae9e57de (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - はじめまして!続きを楽しみしています! (2019年7月25日 22時) (レス) id: 6d688681c6 (このIDを非表示/違反報告)
白瀬(プロフ) - まなむさん» 愛の告白ありがとうございます!その言葉でがんばれます。。 (2019年7月22日 23時) (レス) id: 00ae9e57de (このIDを非表示/違反報告)
まなむ(プロフ) - 初めまして!!あの!好きです!!楽しみにしてます^^ (2019年7月22日 22時) (レス) id: d6b2dcb6a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白瀬 | 作成日時:2019年7月13日 23時