白衣の麗人 ページ2
賑やかな横浜の街の隅、薄暗い路地裏にその診療所はあった。
薄暗くはあるが、わずかに差し込む自然光のおかげで不思議と汚らしさはない。
蔦の絡まった表札が、この建物の名前が『ヨコハマ診療所』であることを表している。
太宰は、なんて安直な、と少し笑う。
▽
「はい、お大事に。1週間以内にまた鉛玉ぶち込まれたら死ぬと思って」
「そんな…」
「奥に君を撃ったヤツが運ばれてるけど、喧嘩はココの外に出てからにしてね」
男は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてから感謝の言葉を述べた。
___ありがとうございます、
女性が、ふわふわとカールした短い茶髪を揺らして微笑んだ。
その笑顔に当てられた男が、魂を抜かれたように診療所を後にしたのを横目に、太宰は部屋に足を踏み入れた。
病院特有の、薬と血の匂いが脳まで届く。
「相変わらずだね、A」
「太宰…?わあ、てっきり死んだんだと思ってた」
「私もだよ。君は信者に刺されたものだと思っていた」
「私はミュージシャンじゃないよ」
久しぶりだと親しげに微笑み、患者のために用意された椅子に腰掛ける男、太宰。
Aはその包帯を一瞥してからまた少し笑った。
「今日はなんの用?私もそれなりに忙しいの」
「冷たいなあ〜。久しぶりに片割れに再会したんだから、心中のお誘いがあってもいいと思うのだけど?」
「私は片割れだと思ったことはないけどね」
向かい合う二人の瞳は同じ鳶色だった。
Aの方が濃く艶やかな茶髪だが、遠くから見ればよく分からないものである。
「そう?中也なんて、君に初めて会った時は大変だったじゃないか」
「うん、太宰が異能で女に変えられた〜って言ってたね。太宰に異能が効くわけないのに」
「うふふ。あの後、中也の車を爆破したのは傑作だったな〜」
「あれやっぱり君の仕業だったんだね」
和やかに形のいい瞳を細めていたAだが、何かを思い出したように手を叩いた。
「そうだ、君に話したかったの」
「なに?」
「君に似てることで損をした話」
「…ちょっと酷くない?」
Aは「毒は入れてないよ」と太宰に紅茶とお茶菓子を勧めながら、窓の方を見やる。朝から曇り空だったが、雨が降り始めた。
薄暗い診療所の中は、たちまち静かな雨の爽やかさで満たされる。
「君が超スパルタ指導した、あの子のことなんだけどね」
242人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白瀬(プロフ) - 皐月さん» ありがとうございます!不定期更新ですが、どうぞよろしくお願いします…! (2019年7月25日 23時) (レス) id: 00ae9e57de (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - はじめまして!続きを楽しみしています! (2019年7月25日 22時) (レス) id: 6d688681c6 (このIDを非表示/違反報告)
白瀬(プロフ) - まなむさん» 愛の告白ありがとうございます!その言葉でがんばれます。。 (2019年7月22日 23時) (レス) id: 00ae9e57de (このIDを非表示/違反報告)
まなむ(プロフ) - 初めまして!!あの!好きです!!楽しみにしてます^^ (2019年7月22日 22時) (レス) id: d6b2dcb6a1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白瀬 | 作成日時:2019年7月13日 23時