No.3 失敗作は、ゴミ箱へ ページ8
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今日も無事任務を遂行した。‥はず、だった。
「ちょっと君、良いかな」
帰り道、新しいいちごガムを口に放り込む。粒を奥歯で噛み砕いたその時、背後から声がした。一瞬で体が硬直する。この声のかけ方、恐らく警察だ。明らかに若い男がこんな時間に1人で出歩いていれば、当然声はかけられる。そんなリスク、分かっていたはずだ。
「‥君？」
怪訝そうな声色。疑われている。しかし、いくら目立たない黒色の服を着ているとはいえ、返り血はついている。この問いに反応すれば何をしたかはすぐバレてしまうだろうし、逆に無視してしまえば疑われるだろう。握りしめた手のひら、ジットリと汗をかいているのが分かった。どうする？
「‥っ」
「君！待ちなさい！」
こうするしか、なかった。
振り向かず、一気に加速する。声から予測すると相手は恐らく四十代ほどの中年男性。警察官だとしても、27歳の体力には到底勝つことは出来ないだろう。そう踏んだ。
「‥嘘だろ」
背後から聞こえるパトカーのサイレン。近くにあったのを良いことに、走りに車で対抗してくるつもりだ。それは考えていなかった、と唇を噛む。
階段を飛び降り、建物の間をすり抜ける。雨に濡れたアスファルトが、俺の逃走を邪魔する。
時々転けそうになりながらも、入り組んだ街路を走り抜ける。街に反響するサイレン。ここを歩く人々は、まさか俺が追いかけられているとは思ってもいないだろう。
「‥マジか」
応援を頼んだのか、周りを注意深くパトロールしている警察官が見えた。‥大体職務質問を断ったくらいで大袈裟な、と、嫌悪感に目を細める。‥いや、ここ最近殺人事件が
御苦労様、と呟きながら、陰で息を潜める。‥ああ、くそ、あれさえ諦めてくれれば‥。
「っ！」
そんな祈りも届かず、そいつは懐中電灯で辺り一帯を照らした。明るさに思わず手で顔を覆う。いや不味いって、ここ逃げ場無いって。まあ、そんな場所に逃げ込んだ俺も俺だけど。
「お前！」
今度こそ、と言うかのように張り上げられた声、ああもう、うるさいってば。捕まれば終わりなのに、逆に血が騒ぐ俺はきっとどうかしている。口角が上がるのを感じながら、塀の上へ立った。‥俺、天才かも。
「‥あーばよ」
振り返り、丁寧にご挨拶。‥ばぁか、こんなとこで終わって堪るかよ。風に身を任せ、俺はその場から姿を消した。
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作者名：輝月姫 | 作成日時：2023年8月22日 16時
