No.5 原点O ページ17
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「え‥だれ、」
目を開けると、そこには知らない男が居た。
驚きのあまり飛び退くと、すっかり生温くなった冷えピタがずり落ちる。だらしなく額からぶら下がるそれを引き剥がし、当たり前のようにソファーに全身を預け寝息を立てている男を、呆然と見つめた。
‥え、誰？開いた口が塞がらない、と言いたいところだったが、開いた口が塞がらないのはどうやらこの目の前の男のようで。白目を剥き、薄く開いた口から涎が垂れているのが見える。子供かよ、なんて余裕ぶって毒づいてみるが、実際には軽くパニックだ。
「え、どうしよ‥」
何これ。ナースコール押した方がいい？看護師さんって不審者の退治まで対応してくれるっけ？てか待って、そもそも何だよ、目を開けたら知らない男が居たって。小説の冒頭かよ。
ベッドの上で1人挙動不審な俺。対して、人の病室で堂々と眠っている男。これじゃあどっちが不審者なのか分からない。
とその時、
「‥んぁ‥‥」
「‥あ」
眩しそうに目を細めながら、遂にその男が顔を上げた。‥え、待って待って待ってどうしよう、目合っちゃったよ！
「‥はよ」
「‥え、あ、おはようございます‥？へへ‥‥」
寝起きは機嫌が悪いタイプなのだろうか、低く掠れた声で俺にそう言うので、咄嗟に俺も笑顔を浮かべながら挨拶を返す。‥あ、まさか、礼儀正しい系不審者？
刺股刺股、と呟きながら、何とか己の身を守れるものが無いか辺りを見回す。いや病室に刺股は流石に無いか。せめて何かほら、あるじゃん、相手を牽制できるヤツ的な‥？
結局それらしき物は見つからず、ガーグルを頭に被り何とか急所は守ることにした。そんな俺を、彼は全く意味が分からないと言った様子で眺めている。‥‥本当にどっちが不審者だよ‥。
その後も俺に危害を加えてくる様子は無く‥いや、寧ろ俺が不審者だとでも言うような空気に耐えきれず、俺はガーグルを下ろした。
「‥あのぅ‥」
「‥‥あ？」
「どちら様で‥？」
恐る恐る尋ねると、その男は「‥あぁ」と軽く頷き、気だるそうに髪を整える。その度に、光を反射したピアスが、ユラユラと柔らかく揺れていた。
「‥ゅり」
「‥はい？」
「‥田中樹」
ぶっきらぼうにそう言い放つ不審者‥もとい田中さん。少し細められた真っ黒な瞳が、俺を捉えた。
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作者名：輝月姫 | 作成日時：2023年8月22日 16時
