汚れた世界で息をする。 (ページ14)

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No.4 桃色の沈殿ページ14

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己の人生を捧げたいと思うほどに愛しているのは、後にも先にも北斗だけだ。

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「慎太郎」

幼い頃から、彼の落ち着いた声が好きだった。大人びた眼差しで俺を優しく見つめ、華奢な手で頭を撫でてくれる。そんな北斗が、俺は大好きだった。

「今日も来てくれたの？」

「うんっ、だって北斗とお話ししたいこと、たぁくさんあるんだもんっ！」

そう言えば、困ったように笑う北斗。そんな美しい彼と、放課後に他愛もない会話をすること。それは友達と遊ぶよりも、ずっと有意義な事だった。

「くっ‥ぁっ‥！」

「北斗くん、分かる？今から苦しいの取るからね、ちょっとチクッとするよー」

でも、神様は不公平だ。小学生にしてそんな台詞を吐きたくなるほどに、運命は残酷だった。病名は、長すぎてよく分からない。けれど、北斗の心臓は生まれつき他の人よりも機能的に弱くて、普通の生活すらままならない状態だということは、当時の俺でもよく分かっていた。

時々、病室に足を踏み入れる前に、北斗の足掻き苦しむ声が聞こえてくることがある。薬の副作用でずっと吐いていたり、もしくは発作で痛みに悶えていたり。彼よりも背が小さくて、幼かった俺は、現実を目の当たりにするのが怖くて、部屋に入ることができなかった。北斗が苦しむ姿を見たくなかった。

「‥ほくと、」

「‥へへ、しんたろ、きてくれたの？」

恐る恐る顔を出せば、北斗は額に汗を浮かべながらへにゃりと笑っていた。自分は辛いだろうに、そんなことを微塵も感じさせない様子で、優しく。

「‥大丈夫？」

「‥ん、なにが？」

そう尋ねると、いつだって彼はとぼけた。何を心配しているのか分からない、そんな風に。

今思えば、きっと北斗は分かりきっていたのだと思う。俺の言葉の意味も、自分が苦しんでいる様子を俺がずっと見ていたのだということも。でも彼は大人だったから、俺の呆れてしまうような臆病さを見て見ぬふりしてくれていた。彼が悲しいほどに、大人だったから。

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