・ ページ13
・
「で、何？‥別に怒ってなんかねーよ」
『いや、怒ってるじゃん。‥まあ良いや、何で急に松村の資料送れって？今までそんな資料くそ食らえ、みたいな感じだったじゃん。気が変わったの？』
「‥そーゆーんじゃなくて」
からかうようなジェシーの口調。舌打ちしたくなる気持ちを抑え、淡々と告げることを意識した。
「今松村が目の前に居んの」
『‥‥‥は？何て？』
「だーかーら！！」
数秒前の決断は何処へやら、驚きの飲み込みの悪さに、思わず怒鳴る。ハッとし、松村に視線を移した。‥まだ眠っている。ホッと胸を撫で下ろす。というか、彼が個室に移されて良かった、思う存分ジェシーに怒鳴れる。
「あのさぁ、松村、今容態が良くないらしくて、俺が居るX病院に入院してんの。上手いこと主治医で松村の幼馴染みの森本慎太郎って奴に接触できたから、これから退院時期とかの情報を搾り取って、目処がつき次第実行しようと思う。資料欲しがったのは足りてない情報を確認したかったからだよ」
『‥ふ〜ん、なるほどねぇ‥。まあ樹に情報収集任せるの心配だけど、無理に俺が突っ込んで不審がられるよりはマシだよね。‥ん、任せた。でもさ樹、それじゃお前今夜病院から抜け出しちゃ駄目だよ』
「‥あ」
‥‥‥やってしまった。どうしよう、もう接触は諦めようか。捕まる方が不味い。そんな俺の考えを読んだのか、ジェシーが何かを思いついたように静かに笑う。
『情報収集取るか保身取るかだよ、樹。まあ現時点で嗅ぎ付けられてないってことは、警察も諦めたって事で考えて良いだろうね。今はお前が殺った人の近辺探ったりしてるだろうし、職務質問で逃げた奴を追いかけ続けるほど警察も暇じゃないよ』
ね、と宥めるようなジェシーの声が聞こえる。‥コイツ。
「‥残れってことだな？」
『HEHEHE、バレた？でもここで断ったらダサいもんね。まあ、でも、樹がその程度の人間じゃないこと、俺ちゃんと知ってるよ』
任せたよ、という声を最後に電話が切れた。最後の最後まで自由な奴だ。
「‥もう、逃げらんねぇな」
外はもう暗い。一人呟きながら、ソファーへ完全に横たわる。リズム良く聞こえる松村の呼吸音に、俺もそっと目を閉じた。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 397人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：輝月姫 | 作成日時：2023年8月22日 16時
