汚れた世界で息をする。 (ページ12)

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ジーンズの前ポケット、スマホが唸りを立てる。松村北斗の呼吸音が響く病室の中、俺は震えるそれを取り出した。

「‥はや」

ロックを解けば、ジェシーとのトーク画面が表示される。『松村北斗の資料を送れ』という文に対し、言葉は添えずデータのみを送ってくる辺り、流石よく分かってるなと思う。必要以上に探り合わない。そういう距離感。

貼り付けられたリンクをタップし、どんなものかと覗き込む。

『松村北斗

【来歴】
1995年6月18日静岡県で産まれる。先天性の心臓疾患の為幼少期から入退院を繰り返していた。心臓の移植手術を受けなければ余命3年の宣告を受ける。現在ドナーは見つかっていない。

【特徴】
177cmと大柄。黒髪。口元に黒子がある。

【依頼理由】
医療費が高額で家族にとって負担な為。

【依頼者】
松村夫妻』

「医療費、ねぇ‥」

保険金目当てではなく医療費が動機であることに違和感を覚えた。そもそも俺たち殺し屋に依頼する金があるのであれば、金銭的にまだ余裕があることが伺える。まあしかし、俺たちに一度払ってしまえばこの先医療費がかかることはないし、俺たちに払った金も保険金で賄えるのだろう。

とはいえ。

「‥まさかここに入院してるとは思わねぇじゃん」

世間は意外と狭いものだ。一人呟き、【補足】として下に新たな行を付け加える。

『【補足】
現在X市立病院に入院中。主治医は幼馴染みの森本慎太郎。』

「森本、な‥」

知り合いであると誤魔化したぶん、今のところは楽だが、後々その森本やらが面倒臭そうだ。接触が多く、情報を多く入手できる反面、こちら側も多く情報を取られることになる。とにかくボロを出さないようにしなければ。

「はぁ‥」

俺は殺し専門だ。ターゲットから情報を盗んだり、依頼を引き受けたりするのはジェシーの担当な為、俺は専門外を請け負っているということになる。しかし仕方がない、今松村北斗に近いのは俺の方だ。下手にジェシーが近づき、怪しまれるよりはずっと良い。

天井を見上げ、大きな溜め息をつく。今間違いなく必要な情報と言えば、いつ退院出来るかだ。病院で殺すのはリスクが高すぎるので、彼が病院を出れたタイミングで実行しなければならない。

「‥ちっ、何だよ‥」

また震えだしたスマホを手に取る。電話だ。画面を見れば、『ジェシー』と表示されている。溜め息が出た。

「‥あ？何？」

『‥何でそんな怒ってんの？』

どうやら、丁度良い距離感では無かったようだ。

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