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松村北斗。俺のターゲット。
「助けて頂き、ありがとうございました」
「あ、いえいえ、そんな。偶然エレベーターが一緒だったっていうだけなので」
彼は倒れた後、即座に治療室へと運ばれた。助けた手前、先に帰るという訳もいかない。気になるというのもあるが、せめて結果だけは聞こうと廊下で待っていたところ、彼の主治医と名乗る人物が俺に頭を下げてきた。ソファから腰を上げる。
「これ、驚かせてしまったお詫びと言ってはなんですが‥」
「ああ、すいません。ありがとうございます」
ジュースや菓子類などを受け取る。これで購買へ行く用は無くなったようだ。
「田中さんですよね、お怪我で入院されているため、食事制限などは一切無いとお聞きしました。こんなもので感謝を表すことは出来ないと思いますが‥どうぞ召し上がって下さい」
「ありがとうございます‥っあ、あの」
では、と爽やかに去って行こうとした彼の腕を咄嗟に掴む。安っぽいビニール袋が雑音を立てて揺れた。
「松村さんって‥大丈夫、でしたか？」
「‥どうして、名前‥ああ、お知り合いなんですね」
知り合い、と言うか、一方的に認知している、と言うか。口ごもる俺を見て、先生がフワリと微笑む。
「アイツにも知り合いが居たんだ‥‥なら、もう御存じですよね。彼の、心臓の事」
瞬間、頭にあの資料を思い浮かべる。生まれながらの心臓疾患で、幼少期からよく入退院を繰り返していた。そして現在、このまま心臓の移植手術を施さなければ‥余命3年。
俺の沈黙を肯定ととったのか、彼がこちらに向き直る。ネームプレートが見えた。森本慎太郎。新たな情報だ。
「正直、あまり思わしくはない状況です。いつ発作が起こるかは分かりません。意識もないままです。‥でも、もし良ければ、傍に居てやってくれませんか」
頭の資料に彼の言動を書き加えていく途中、思わぬ言葉が聞こえた。目を丸くする。
「俺、アイツの、‥北斗の幼馴染みなんですけど。傍に居てやりたいけど、医者なので、そういうわけにもいかなくて。目を覚ました時に知り合いが居たら、北斗も安心すると思うんです。田中さんの主治医に許可はとっておきます、なので‥」
どうかお願いします。頭を下げられ戸惑う。日本人はこういう時に断れないらしい。俺もちゃんと日本国籍であることが証明されたところで、いや、悪くはないぞ、と思い直す。
むしろ、彼の情報を入手するチャンスではないか。ニヤリと口角を上げ、頷いた。
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作者名：輝月姫 | 作成日時：2023年8月22日 16時
