No.2 きっと、どうかしているねって。 ページ2
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ふと目を覚ますと、吐き気がする程の白い天井が見えた。この天井‥嗚呼、またか。
「あっ、松村さん、目が覚めましたか！！」
丁度様子を見に来ていたであろう主治医の森本先生が、まるで劇の台詞かのような口調で言う。因みに、目覚めたばかりの時の彼の声量と顔の圧は、どんなに副作用のキツイ薬よりも、軽く100倍は辛い。
「‥はい。もう、目も覚めましたし、帰っても良いですよね」
「ぅえええ！？ちょちょちょちょ、起き上がらないで下さい松村さん！！」
溜め息をつきながら体を起こしたところ、大声で叫ばれた挙げ句、ベッドに押さえ付けられた。彼の馬鹿力も含めて考慮すると、これは物理的にパワハラというか、ほぼプロレスの技である。彼の力に病人が勝てる筈もなく、呆気なくベッドに逆戻りだ。
また溜め息が出る。
「松村さんねぇ、これで何回目だと思ってるんですか。まぁた薬も飲まずに夜遅くまでほっつき歩いて、それで倒れて。貴方、通りすがりの人に助けられてなかったら、死んでたんですからね！？分かってます！？」
「あーはいはい、分かりました分かりました。‥じゃ、帰るから」
「駄目ですってば！！」
もう！と頬を膨らませる森本先生。‥いや、二十代、しかもワイルド系の顔面のそれはもはや恐怖だから。
「‥ねぇ‥‥‥北斗」
しかし一転して、彼は悲しそうに眉を下げた。息を飲む。この顔は嫌いだと思い、ほぼ反射的に目を反らす。赤い空を悠々と飛ぶ、一匹のカラスが見えた。
「‥余命宣告されて、辛いのは分かるけど‥最期まで、自分の体は自分が大切にしないと」
「分かってる」
「嘘つけ、分かってないだろ」
声に怒りが滲んでいた。いい加減鬱陶しくなってきて、体ごと彼から背を向ける。「自分の体は自分で守れ」‥そんな台詞、これまでに何百回も聞いてきた。もうそろそろうんざりだ。
「北斗」
「‥‥‥」
「これは主治医としてとかじゃなくてさ、幼馴染みとして」
「じゃあ何で？」
耐えきれなくなって溢れ堕ちた言葉は、不安定に揺らいでいた。話を遮られた事によってテンポを崩したのか、慎太郎が分かりやすく口ごもる。そうやって人から怒りをぶつけられればすぐに落ち込むガラスのハート、全く昔と変わっていない。
痩せ細った腕を見る。こんなにも俺は変わったのに、慎太郎だけはそのままであるということに、また苛立ちを覚えた。
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作者名：輝月姫 | 作成日時：2023年8月22日 16時
