汚れた世界で息をする。 (ページ1)

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No.1 序章にも満たないページ1

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人が死ぬ瞬間というのは、本当に呆気ないと思う。

「‥あーばよ」

刃(やいば)が肉を貫く感触、骨をも砕いて血が溢れ出す。痛みに歪んだ顔、崩れ落ちる体。紅にまみれ滑りやすくなったそれを、勢いよく引き抜く。

たったそれだけ。たったそれだけで、人の生涯は幕を閉じる。

「‥3分」

街灯に反射し煌めく針を見て、ポツリと1人呟く。3分。インスタントラーメンが完成する時間で、彼は命を奪われた。ナイフを捨てる。カランカランと、命を嗤うかのように、蔑むような軽い音がした。

例えば、ナイフのような武器。例えば、熱湯のような極端に熱いもの。反対に、氷水のような極端に冷たいもの。例えば、狂犬病のようなウイルス。他にも、水や炎のような自然。人の命を奪うものは、こんなにも多種多様にある。

それなのに、それにも気づかず、人類はのうのうと生きる。自分は死から程遠いと、根拠もなく過信して。保証も無い明日を、都合の良いように望んで。

いつ自分に殺意が向けられるかなんて、そんなの分からないのに。

「‥ばーか」

白目を向いた顔面を軽く蹴る。新品の革靴が、薄く汚れた。

「‥ちっ」

舌打ちをし、味のしなくなったガムを吐き捨てる。いちご味だったのだろうか、まだ濃くピンク色を主張するそれが、アスファルトにだらしなく貼り付いた。

「‥くそ」

遠いどこかで、サイレンが響き渡る。夜空の星星が、どうしようもない俺を慰めるかのように、さりげなく照らしていた。

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