-Episode55- ページ7
夏油「そっか」
まだ何か言いたげだったが夏油さんはそれ以上何も言わなかった。
事務所と書かれた一室の扉を開けると中からは異臭が漂い、蠅が顔の近くを飛び回る。
補助監督が電気は通っていないからと持たせてくれていた懐中電灯のスイッチを入れた。
「ッう」
首から上の無い人、下半身の無い人、あちこちに散らばる部位に何も入っていないはずの胃から何かがせり上がる感じがして咄嗟に手で口元で押さえる。
夏油「これは酷いな」
「…酷いってものじゃないですよ」
自然に出てしまった涙を拭う。
夏油「帳が上がったら補助監督に連絡して回収しに来て貰おう」
「はい」
静かに扉を閉めた。
歩いて来た廊下をまた戻ろうとすると人が二人立っている。
夏油「Aちゃん、止まって」
「え?逃げ遅れた人なんじゃ…わッ!」
腕を引かれたのと同時に細かい針が飛んで来た。
夏油さんが出した呪霊の影に隠れる。
「どうして私達を攻撃して来るんですか?」
夏油「呪詛師だよ」
「呪詛師?」
夏油「呪術師の逆の事をしている人達だよ」
「逆?」
呪術師は非呪術師を助ける。
なら呪詛師は非呪術師を殺す。
『あれェ?六眼の餓鬼じゃないよ』
『やっぱり工場に行った方だったか』
『殺せば幾らになるかな』
『合わせて三桁』
『じゃあ殺そう』
はっきりと聞こえた言葉に冷や汗が止まらない。
夏油「私が相手をするからここにいて」
「でも!」
夏油「今の君は足手纏いだから邪魔」
はっきりと言われた言葉。
夏油さんの言う通りだ。
この世界は甘くない、私の考えと違って。
奥歯を強く噛みながら夏油さんが出してくれた呪霊の影で蹲って膝に額をつける。
聞こえてくる音に両手で耳を塞いだ。
人と戦えなんて私には出来ない。
近くで何かが倒れる振動が伝わって顔を上げれば夏油さんが倒れてフードを被った男が夏油さんの顔を踏みつけていた。
すると頭上に影が出来る。
見上げると別の男が私を見下ろしていた。
手には特殊な形をした刃物。
見えている口元。
その片方の口角が上がった時には私の盾になっていた呪霊が斬られた。
灰の様に空気中に消えて行ってしまう。
もう一度、男が刃物を持った手を振り上げた。
来る。
急いで逃げようと足に力を入れてがもつれてしまいその場に倒れてしまう。
『死ね』
『なら、俺の為に生きろ、俺が死んでもいいよって言うまで』
鈍器で殴られた衝撃と共に流れる知っている人の声。
勝手に動いた手には見知らぬ刀。
そして男の刃物を弾いた。
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作者名:アルマジロ | 作成日時:2023年9月2日 9時