-Episode86- ページ38
九十九「そうだね。天与呪縛はサンプルも少ないし私の今の本命は2だね。全人類に呪力のコントロールを可能にさせる」
「術師からは呪霊が生まれないから」
九十九「まァ、術師本人が死後呪いに転ずるのを除いてね。術師は呪力の漏出が非術師に比べ、極端に少ない。術式行使による呪力の消費量や容量の差もあるけど…1番は流れ、だね」
空になった缶を灰に変える。
灰は手の平に山になるが次第に溶ける様に消えた。
「術師の呪力は本人の中をよく廻る。だから全人類が術師になれば呪いは生まれない」
夏油「じゃあ、非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか」
九十九「夏油くん」
夏油「あッ…」
きっとあの日から傑は非術師の存在について色々と考えていたんだ。
私も一度は思ったことがある。
守っていて価値があるのかと…。
背中を壁に預けながら天井を見た。
九十九「それはアリだ」
夏油「え、いや…」
九十九「というか多分、それが一番簡単だ。非術師を間引き続け、生存戦略として術師に適応して貰う。要は進化を促すの、鳥達が翼を得たように恐怖や危機感を使ってね。だが残念ながら私はそこまでイカれていない」
天井を見ていた視線を窓に向けると雨が降り始めていた。
九十九「非術師は嫌いかい?夏油くん」
夏油「分からないんです。呪術は非術師を守るためにあると考えていました」
盤星教のあの狂気じみた光景を見れば分からなくなるのも仕方がない。
夏油「最近、私の中で非術師の価値のようなものが揺らいでいます。弱者ゆえの尊さ、弱者ゆえの醜さ、その分別と受容が出来なくなってしまっている。非術師を見下す自分、それを否定する自分」
「術師というマラソンゲーム」
夏油「その果てにあるのはなんなのかが曖昧で何が本音か分からない」
膝の上で強く握られている傑の手を掴んだ。
九十九「どちらも本音じゃないよ。まだその段階じゃない、非術師を見下す君、それを否定する君。これらはただの思考された可能性だ。どちらを本音にするかは君がこれから選択するんだよ」
強く降り注いでいた雨が弱まった。
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作者名:アルマジロ | 作成日時:2023年9月2日 9時