-Episode41- ページ42
『何、頼みます?』
「えっと…」
『これとかお勧めですよ』
メニューに書かれたカタカナ。
分からない。
『俺が適当に頼んじゃっていいです?』
「お願いします」
料理を待っている間、料理を食べている間、全てこの男が話をする。
それに私は相槌と返しにくい返事をしてた。
話を聞くのは楽しいがだけどどこか物足りなさを感じる。
それが顔に出ていたのか男は最後に楽しくなかったですかと店を出たすぐに言った。
楽しかったと伝える前に別の声がそこまでなんじゃねェのと言う。
店先のガードレールに座っていたのは悟。
どうして店が分かったのだろうか。
五条「帰るぞ、A」
いつもは呼んでくれない名前を呼んでくれた。
心臓の辺りが苦しくなる。
『待って』
一歩前に出た私の腕を男が掴んだ。
『君は彼に利用されているんだ!』
利用?
考えてみるが思い当たる節がない。
「必要としてくれているなら本望です」
『は』
「私が死なない理由なので」
『意味が分からない。それで君は幸せなのか!』
五条「少なくともお前よりは俺、コイツのこといい顔させられる」
男の手を悟が掴み離してくれたと思えば次に私の手を掴んで引っ張ってくれた。
「悟」
五条「あ?」
「ありがとう」
五条「ったく」
後ろから見える悟の耳が少し赤くなっていた。
『待ってよ!』
空いている手が後ろに引っ張られ重心が傾く。
視界の端に映った銀色の小刀。
護身用の呪具だろう。
近衛家の術式が感じられる。
『俺も君が必要だ』
「ごめんなさい」
『どうして!なんで!』
鋭い切っ先を私に向けた途端、路上を歩いていた人達が驚きその場から小走りで走って行く。
悟に握られている手をゆっくりと上に上げると男の手に握られていた小刀は溶けた。
「五条悟といると心が温かくなるの。貴方にはそれが無かった」
私の手を離してその場に崩れ落ちる男の瞳から涙が落ちアスファルトに染みを作った。
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作者名:アルマジロ | 作成日時:2023年8月8日 22時