-Episode29- ページ30
獣道を必死に走った。
段々と中腹にある廃旅館の全貌が見え始める。
中に手を伸ばし引っ張るように刀を引き抜く。
先程まで乗っていた車が入り口に止まっているが補助監督の姿は無い。
「裏に行って下さい。私は此処から中を見ます」
五条「いや、一緒に来い。まずは傑を探す」
「分かりました」
走るのを辞め、全方向に危機感を張り巡らせながら歩く。
五条「気色悪い気配ばっかしやがる」
「いつ出て来てもおかしくないですね」
五条「傑の呪霊が消えて無いってことはアイツは無事だ」
裏に回ろうとした途端、廃旅館の硝子が一斉にこちらに飛んで来るが無下限のおかげで刺さることは無い。
五条「先に行け」
「ご武運を」
足元をずっと付いて来ていた傑の呪霊を抱き抱えその場から小走りする。
裏に辿り着くが神社は無く、奥へと続く階段と鳥居があった。
傑の姿は無い。
階段を一段上がった瞬間に感じる特級呪霊の気配。
片手に握った刀で何も無い空間を切ると縦に空間が割れる。
その割れ目に体をねじ込ませると場面が変わると神社のある頂上の鳥居の下に私はいた。
状況を把握する前に私に黒い塊が飛んで来る。
それが傑の背中だと認識した事にはぶつかって飛ばされて階段から二人して転げ落ちていた。
踊り場の様な場所に転がるとすぐに体を起こす。
夏油「すまない」
いつもの冷静な傑が敬語を忘れるほどだ。
状況は最悪なのだろうだけど聞く。
「いえ、それより状況は？」
夏油「神社内に祀られていたのは両面宿儺の指でした。それをあの補助監督が…」
額が切れてしまっているのか手の甲で血を拭う傑にハンカチを渡す。
夏油「ありがとうございます」
「呪詛師は？」
『此処だよ』
真後ろから聞こえた声に振り返るのと同時に裏拳するが当たる感触が無いまま横腹に回し蹴りを入れられ飛ばされた。
草木の中を再び転がり木の幹に背中をぶつけ止まる。
一瞬、息が出来なくなるがすぐに酸素を沢山吸うと口の中が血の味がした。
飛ばされた時に舌を噛んだのか。
血を吐き出し呪具を取り出す。
柄が地面から浮き出るので握ると薙刀が顔を出した。
軽く横に動かすと一面木々が吹き飛ぶ。
驚いている傑の後ろの空間が歪む。
そこに向かって呪力を纏わせた薙刀を投げたが避けられてしまう。
随分と厄介な敵だ。
夏油「無事ですか？」
「肋骨二本は折れてると思います」
夏油「私もです」
二人で背中を合わせる。
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作者名：アルマジロ
| 作成日時：2023年8月8日 22時
