-Episode12- ページ13
玄関扉を出て、下ろしていた帳を解くと辺りは薄っすらと霧がかかっていた。
柄を手から離すと刀は、地面に出来た黒い水溜りに沈んで行く。
「お邪魔しました」
門を閉じながら言う。
近くに止まっている車に手を挙げると運転席から補助監督が出て来る。
『頼まれていた物です』
やっぱり鼓膜は両方破れているようだ。
何も聞こえない。
口の動きを感覚で読む。
「ありがとうございます。中に此処に住んでいた家族の亡骸が四つありますので処理をお願いします」
『了解しました』
煙草とライターを受け取ると補助監督は連絡を入れに行ったのか車へと戻って行く。
箱に付いているビニール包装を破り袂の中へ入れ、蓋を開け指を使わずにくわえた。
ライターの横車を何度か回転させるがなかなか火は付かない。
首を傾げてライターを見つめていると何かが飛んで来る気配に顔を上げた。
硬い物の感触に咄嗟に握った拳を開くとライターが収まっている。
飛んで来た方向に顔を向けるとスウェット姿の男が一人。
『やるよ』
そう言った口には傷があった。
感謝の言葉を言う前に男は霧の中へと消えてしまう。
『時機に警察の方々が来るそうです…近衛さん?どうして笑っているんですか?』
そう言われるまで自分が笑っていることに気づかなかった。
恥ずかしさに背を向け、貰ったライターの横車を回すと一発で火が付く。
「ありがとう、禪院甚爾」
そう言いそびれた感謝の言葉を煙草の煙と共に濃い青と橙が混ざり合っている空へと吐き出した。
数時間ぶりに吸う煙草は格段に美味しく感じる。
くわえていた煙草を指先に持って灰を地面に落としながら車に戻る。
霧の中から現れたパトカー数台とすれ違う。
車のトランクにもたれながら警察と補助監督が話している様子を見つめていた。
煙草を消そうか消さないかの瀬戸際に補助監督が戻って来る。
地面に投げ捨て草履の踵で火種を踏み消し、制服を数回叩き後部座席に乗り込んだ。
帰ったらシャワーを浴びよう。
腕を組んで目を瞑った。
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作者名:アルマジロ | 作成日時:2023年8月8日 22時